「認知症になった私が、今を生きる理由」と題し市民に講演する丹野智文さん=糸島市で2026年1月16日午後2時14分、日向米華撮影

 認知症基本法が施行されて1月で2年になったのに合わせて、福岡県糸島市内で市民向け講座があり、国の「認知症希望大使」を務める丹野智文さん(51)=仙台市=が「認知症になった私が、今を楽しく生きる理由(わけ)」と題し講演した。

 厚生労働省の研究班によると、65歳以上の認知症あるいは予備軍とされる軽度認知障害(MCI)の有病率は、高齢者の人口がピークを迎える2040年には30・5%に上ると推計されている。誰もが認知症になり得ると言われる中、24年には国の基本法が施行され、認知症になっても希望を持って暮らせる「新しい認知症観」が示された。

 丹野さんは自動車販売会社の販売員として活躍していた最中、物覚えが遅くなり、次第に担当する客も分からなくなった。39歳で診断されたのは若年性アルツハイマー型認知症。「アルツハイマー=(人生の)終わり」と感じた時期もあったが、昔の部活仲間から「お前が忘れても俺たちはお前を忘れない」と言われ心配が薄れていったという。

 丹野さんは、認知症になった途端に怒られたり、外出や財布を持つことを禁止されたりする当事者の現状に触れ、「周りの人はできることを奪わないでください。信じて待ってあげてください。当事者は失敗を恐れず自立する気持ちを持つことが大事です」などと呼びかけた。

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認知症本人大使を務める丹野智文さん=糸島市で2026年1月16日午後2時15分、日向米華撮影

 糸島市では4月から認知症本人ミーティング「よかよかっ」を月2回開催しており、1月の講座ではミーティングで交わされた当事者の言葉がパネルで紹介された。

 <あそこは楽しいけれど、たどり着くのに2時間かかったわ>

 丹野さんは「こんなのしょっちゅうですよ。冒険だと思って楽しんでほしい」と明るい口調で返答。県外に行く際には1、2時間早めに出かけることや、移動ルートを書いた付箋を駅員に渡すなどの工夫も紹介した。

 <認知症になる事に恐怖があった。でも、仲間と話して、そうじゃないと思った。認知症と向き合うことも大切と思う>

 この言葉に対しても「認知症になってもあしたから急に何かが変わる訳ではない。例えば会社で上司が分からなくても事前に症状を伝えておけば困らない。病名よりも症状と向き合うことが大切」と助言。周りの人に対しては「『今日の昼は何食べた?』と聞くよりも、『今日の夜は何を食べたい?』と今後のことを聞いてくれたらドキドキワクワクする」と理解を求めた。

 国の「認知症希望大使」は、当事者本人が発信できる機会を増やすことで認知症への理解を普及しようと、厚生労働省が2020年から任命し、現在7人が活動を続けている。【日向米華】

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