昨年10月のパリ・ファッションウイークでも参加者が一服 EDWARD BERTHELOT/GETTY IMAGES
<Z世代がいま惹かれているのは「一服のムード」。背景にあるのは、クリーンすぎる生活への疲れと、小さな反抗への憧れ>
いまZ世代(おおむね1997〜2012年生まれ)の間で、たばこが復権しつつある。健康被害への懸念や禁煙推進政策が広まり、多くの人が喫煙をやめて何十年も過ぎた今、再び存在感が高まってきた。
SNSでは、セレブやテレビドラマの登場人物がたばこを吸っている写真が人気になっている。ファッション系コンテンツや実際のファッションショーにも、たばこは頻繁に登場している。
Z世代は、これまで健康志向が強いと見なされてきた。世界のアルコール飲料の市場調査を行うIWSRの24年7月の調査では、アメリカのZ世代の成人の64%が、同年5月までの半年間にアルコールを口にしなかったと答えた。
ミシガン大学の研究チームも、薬物やアルコールを断つ学生の割合が過去最高に達したと同年12月に報告している。
アメリカでは高校最終学年に当たる12年生に限っても、過去30日間にアルコールやマリフアナ、ニコチン製品を含む「薬物」を一切使用しなかった割合が67%に達した。17年の53%から大幅な増加だ。
いまTikTok(ティックトック)やインスタグラムなどのSNSには、ウェルネス系のコンテンツがあふれている。昨年9月に登場した「グレート・ロックイン」は、年末まで自己改善に集中しようというムーブメント。「75ハード」は、75日間で体の健康とメンタルの強さを高めるプログラムだ。
ささやかな反抗の印?
Z世代は、極端にクリーンなライフスタイルを推奨するアルゴリズムの下で成長してきた。ところが最近になって、前世代が好んだ「悪癖」に触れ始めているようだ。
米疾病対策センター(CDC)が24年に公表したデータによれば、22年時点でアメリカの18〜24歳のおよそ20人に1人が紙巻きたばこを使用していた。ただし25〜44歳の層では、その割合が3倍近くに上っている。
Z世代が新たに喫煙を始めているという確かなデータはない。だがSNSを見る限り、彼らはたばこを吸う姿が醸し出す雰囲気を好み、それをSNS上の「友人たち」と共有しているようだ。
たばこを吸うセレブの写真をアップするインスタグラムのアカウント「シグフルエンサーズ」を運営し、9万3000人以上のフォロワーを持つジャレッド・オビアットは、喫煙が若者に再び注目されている理由についてある種の健全なニヒリズムだと述べる。アメリカンドリームがこれまでになく手の届かないものになっているという感覚に行き着いているのだ。
「進学し、家を買い、家庭を築くという伝統的な人生設計が、多くの人にとって現実的ではなくなっている。AI(人工知能)の時代を迎えて実体感を失っている今の世界で、たばこは確かな手触りを与えてくれる。ちょっとした反抗のアイテムとして、たばこを手にするのも悪くないという感じなのだろう」
だとしたら、おしゃれで健康的な抹茶ラテより、たばこ一箱のほうが魅力を放つようになったとしても、驚くことではない。
20年周期のトレンドか
ファッション業界のデータを分析するインスタグラムのアカウント「スタイル・アナリティクス」は昨年11月、画像・動画共有サイトのピンタレストで「smoking pose(喫煙している姿)」という語の検索数が、アメリカの18〜24歳の層で前年から70%増えたと報告した。
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このアカウントを運営するモリー・ロイヤカースは、本誌の取材にこう答えた。
「喫煙が再びカルチャー入りし始めたことを示す最初の明確な兆候は、24年の『ブラット・サマー(Brat Summer)』だと思う。それまでの数年間を支配していた、過度に無菌的でクリーン・ガール・エステティック(ヘルシーでナチュラルなSNS発祥のファッションスタイル)からの明らかな転換だった」
「ブラット・サマー」とは、イギリスの女性シンガーソングライター、チャーリーxcxが24年夏に発表したアルバム『ブラット(Brat)』が巻き起こしたトレンドだ。
攻撃的な色彩や漆黒のサングラスというファッションスタイルで、快楽主義やカオス、奔放なパーティーカルチャーをこの作品で前面に押し出した。
チャーリーxcxのアルバム『ブラット』(2024年)ロンドンのおしゃれなハックニー地区で開いた自身の結婚式を含め、喫煙するチャーリーxcxの姿を捉えたパパラッチ写真が拡散されたこともあり、たばこは「ブラット的な美学」と切り離せない存在になった。

「セレブも一般の人も、今はSNSで自分のパーソナルブランドを少しずつつくり上げる。特定のイメージを打ち出したいなら、インスタグラムに映るたばこは驚くほど効果的だ」と、シグフルエンサーズのオビアットは言う。
「チャーリーxcxがたばこを吸っているのを見て、同じエネルギーを手にするためにその美学をまねようとするのは自然なこと。セレブがネット上で喫煙しているイメージを見せることは、誰もがそのイメージをまとっていいという社会的なお墨付きとして機能する。そして、もしかすると自分も、彼らと同じくらいクールに見えるかもしれないとも思わせてくれる」
スタイル・アナリティクスのロイヤカースは、たばこの文化的な復権について、90年代のグランジや00年代初頭のインディー・スリーズのトレンドにも言及した上で、こう説明する。
「20年周期のトレンドが巡ってきただけというのが、おそらくシンプルで正確な解説だろう。たばこは、いま私たちが憧れる美学や時代と結び付いている」
目下のトレンドは憧れにとどまらず、実際の喫煙者の増加につながるのか。その点はまだ分からない。
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