臓器にまとわりつくがん細胞のイメージ Hopestar21-pixabay

<細菌を用いてがんを死滅させるというアプローチは今までも試みられてきたが>

腫瘍を内側から食い尽くすよう設計された細菌が、がんとの闘いに新たなアプローチをもたらす可能性がある。

【動画】がんを食い尽くす細菌とその仕組みを解説

カナダ・オンタリオ州のウォータールー大学の研究者らが報告した。


この手法は、固形がんが抱える大きな弱点を突くことを狙ったものだ。腫瘍は増殖が進むにつれて血液の供給が追いつかなくなり、細胞の一部が死滅する。結果、腫瘍の中心部に酸素のない領域が生じるのだが、研究者たちはそこに目を付けた。

研究者らが用いたのは、クロストリジウム・スポロゲネスと呼ばれる細菌。土壌に多く存在するこの細菌には、酸素を含まない環境でしか生存できないという特徴がある。

その特性により、多くの固形腫瘍の中心部はこの生物が増殖するのに理想的な場所となる。腫瘍内部に入り込むと、クロストリジウム・スポロゲネスは増殖し、がん組織を内側から分解し始めるのだ。

酸素耐性をつけると新たなリスクが

クロストリジウム・スポロゲネスは腫瘍の深部では増殖できるが、わずかとはいえ酸素が存在する外縁部では生存できない。結果、腫瘍を完全に破壊する前に死滅してしまう。

研究者らは、この問題の解決の糸口を遺伝子工学に求めた。

彼らは、別の細菌から、クロストリジウム・スポロゲネスが酸素に耐えられるようにする遺伝子を組み込んだ。これにより、腫瘍外縁部へと移動する際、やや高い酸素濃度の環境でも細菌がより長く生存できるようになる。


しかし、クロストリジウム・スポロゲネスに酸素耐性を与えることは新たなリスクも生み出した。この遺伝子が早い段階で活性化すると、血流など本来増殖を意図していない酸素の豊富な場所で生存してしまう可能性があるのだ。

それを防ぐために、研究チームは「クオラムセンシング」と呼ばれる、細菌が元来備えている情報伝達の仕組みを利用した。細菌は増殖する際に化学物質を放出し、それを互いに感知している。細菌の数が少ないうちはその物質の濃度も低いため反応は起こらないが、数が増えて一定の密度に達すると濃度が高まり、特定の遺伝子が働き始める仕組みだ。

今回の場合、酸素耐性遺伝子は、腫瘍内部に多数の細菌がすでに集まった後にのみ作動するよう設計されている。そのため、細菌は酸素の多い環境では活動せず、がんの内部にしっかりと定着した後になって初めて、付与された生存能力を発揮するようになっている。

マーク・オーコイン教授(化学工学)は「細菌の胞子は腫瘍内に入り込み、栄養が豊富で酸素のない環境を見つける。われわれは今、腫瘍の中心部に細菌を定着させることができている。この細菌が体内の腫瘍を取り除く働きをしている」と述べた。

がん治療の新たな選択肢になる?

研究者らはこれまでの研究で、クロストリジウム・スポロゲネスが遺伝子改変によって酸素に耐えられるようになることを実証している。

その後の研究で、細菌が緑色蛍光タンパク質を作り出すよう遺伝子を組み込み、クオラムセンシングの仕組みが正しく働くかどうかを確かめた。細菌が光を発するかどうかを手がかりにして、細菌の数があらかじめ設定した水準に達したときにのみ、その遺伝子が働き始めることを確認した。


今後は、酸素耐性遺伝子とクオラムセンシング制御システムを一つの細菌に統合することを目指す。研究チームは、前臨床段階の腫瘍モデルを用いてこの細菌を試験し、固形がんを分解できるかどうかを検証する予定だ。

実験が成功すれば、この遺伝子改変が施されたクロストリジウム・スポロゲネスは、狙った腫瘍の内部に入り込んで、内側から弱らせたり壊したりする治療法として新たな選択肢となる可能性がある。

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