9日間、60万人を超える各国のファンを魅了した東京世界陸上。約200の国と地域から約2000人の選手が集まり競った中で、ただ一人、棒高跳のアーマンド・デュプランティス(25、スウェーデン)が世界新記録を樹立した。今大会最初で最後となった偉業をなしとげたデュプランティスが翌16日に独占インタビューに応え、歓喜の瞬間を振り返った。

大会3日目の国立競技場は、午後11時を過ぎても満員のままだった。5万3000人の視線を独り占めしていたのは、男子棒高跳の世界記録保持者。今年の8月に6m29をマークし、自身の世界記録を更新したデュプランティスは、この日6m15まで一度も失敗することなく、先に金メダルが確定。その後、6m20をパスし、バーの高さを一気に世界新の6m30に上げた。1回目、2回目は失敗したが、最後の3回目で成功。自身14回目の世界記録更新の歴史的瞬間に、国立競技場は割れんばかりの大歓声に包まれた。

最後の最後で勝負強さをみせたデュプランティスは、真っ先に婚約者のデジレ・イングランダーさんの元へ向かった。

世界新の跳躍は「完璧で美しい夜だった」

石井大裕TBSアナウンサー:終えてみて、今どんな気持ちですか?

デュプランティス選手:ちょっと二日酔いだね。でもね、すごくハッピーだし、感謝したい気持ちなんだ。なんかある意味圧倒されたんだよね、色んな感情がこみあげてきて・・・うーん、何だかよくわからないけど今はただ、この瞬間を楽しんでいるよ。東京にいるのがすごく好きだからね。

石井アナ:14回目の世界記録だけど、それについてはどう思う?毎回記憶に残っていると思うけど、今回の東京は観客であふれていたし、時間もほぼ午後11時だった。何か思ったことはある?

デュプランティス:素晴らしいことだと思う。それに前回のオリンピックの時は観客がいなかったからね。個人的には、この瞬間には何か特別なものがあると思う。スポーツって観客に囲まれて競技が行われるものだよね。それが今回、日本の観客の前で記録を塗り替えることを経験できてうれしい。それがスポーツのあるべき姿で、色んな人が集まって、このような瞬間を共有する。自分自身や家族、そして観衆のためにそんな瞬間を共有できてハッピー。おっしゃる通り午後11時だったけど、みんな残ってたじゃん。僕がジャンプするのを見るためだけにだよ、それってすごいこと。だから、ただそんな皆に感謝したい気持ちでいっぱいなんだ。僕のジャンプを見るためだけに残ってくれたみんなにね。本当に光栄なことだし、そんな素敵な瞬間を皆と共有できてよかった。

石井アナ:6m30は誰もやったことがないこと。自分にそれが飛べるんだと、想像できた?

デュプランティス:うーん、たぶん・・・いつも自分に自信があったんだよね。できると自分自身を信じていたよ。でももちろん、全てのピースが正しくはまらないといけないからね。昨日はそれが起きた完璧で美しい夜だったっていうことさ。いい天気だったし、いいスタジアムや観客も素晴らしかった。高く飛ぶのに必要なすべてのピースが完璧だったんだよ。なので、高く飛べてめちゃくちゃ幸せだったんだ。

石井アナ:一回目のトライでほぼ成功したけど、膝が触れたんだっけ?

デュプランティス:わからないな、覚えてすらいないんだ。3回とも結構惜しかったと思うけど、無意識的にだし、わざとじゃないけど3回目のトライはすごくドラマチックだったと思うんだ。より楽しかったし、見てる人をもっとハラハラさせられたし、そっちの方がみんなにとって良かったよね、わざとじゃないんだけど、どこか自分を追い詰めたい、っていう気持ちがあったかも。一度勝ってしまうとそんなプレッシャーもなくなっちゃうからね。そんな気持ちが少しあったのかもしれない。そうやってみんなをハラハラさせて焦らしたのかもね。でも、何にせよあの時あんなにいいジャンプができてとてもうれしいよ。

石井アナ:とてもドラマチックだったし、映画みたいだった。

デュプランティス:そうかもね、この旅自体が僕にとっては映画みたいだよ。なんか現実っていう感じがしないんだ。日本でのすべてがそう感じるよ。日本のみんなはすごく優しいし、丁寧だし素晴らしい。ここに居られて、色んな経験ができて本当にうれしい気持ちでいっぱい。世界記録樹立はもちろん一番うれしいことだけど、ここ東京での滞在は本当に素晴らしいものだった。本当に、全てのサポートに感謝してもしきれないくらいだ。

石井アナ:それが聞けてうれしいよ。もう一つ聞きたいんだけど、(ギリシャのカラリスとの金メダル争いの中)飛んだ6m10のとき、(客席に向かって披露した)ポーズはなんだった?

デュプランティス:イチロー!スズキイチローを知ってるよね?僕はアメリカの学校に通っていて、そこで野球をやってたんだけど、僕もイチローみたいに右投げ左打ちだったんだよね。僕もちょっと小柄で足が速いタイプだったから、イチローに似てたんだよ。イチローほど上手じゃないけど、ぼちぼち野球をやっていたよ。だから僕にとってはレジェンドに敬意を示すようなものさ。イチローは僕のベストプレーヤーだったからね。イチローが世界中で一番好きな選手だったからね。イチローという、レジェンドでもあり僕のアイドルでもある人への敬意さ。

石井アナ:それはすごい。大谷(翔平)のファンでもあるんだよね。

デュプランティス:うん、彼は本当に世界一のアスリートだよね。最高の野球選手だし、すごいスキルを持っているよね。知らない人に説明するのは難しいけど、世界一のバッターでもあり、ピッチャーでもあるのがすごいよね。両方でベストってのがすごい、同世代の星だね。とにかく、野球は好きだし、すごくそのへんのカルチャーとも馴染みがあるよ。

「いい瞬間を彼女と共有するのは、世界で一番幸せなこと」

石井アナ:次は婚約者さんについてお伺いしたいです。記録を樹立した後、彼女の方に一直線に駆け寄っていきましたよね。モーゼみたいに観衆が道を開けて、その瞬間はどんな気持ちだった?

デュプランティス:ある意味、今言ってくれた通りだよ。彼女以外何も見えなかった。他のものは何も見えなくて、ただただまっすぐ彼女のもとに向かったよ。彼女は、僕の人生の中で最も大切な人だし、彼女の功労もすごく大きいんだ、今みたいな状況とかね。本当にありがたい、彼女のおかげで色んなもののいいバランスがとれる。アスリートとして競技にどっぷりつかる時もあるけど、そんなときにこそ彼女のおかげで生活の中のいろんなもののバランスが取れるんだ。いい瞬間を彼女と共有するのは、世界で一番幸せなことだよ。

石井アナ:いいですね、妻にもこんなこと言ってみたい。

デュプランティス:あなたもロマンチックな人だよ(笑)

石井アナ:そして、お父さんとも話した?

デュプランティス:うん、ここに来る前にちょっとだけ話したよ。正直言って、あんまりまじめすぎる話はしてないけど、たぶん二人ともまだこの瞬間に夢中になっていると思うよ。でも僕ら、東京での時間をすごく楽しんでいるんだよ。彼は、もう旅行を昔ほど楽しめる年齢ではないからさ。家のカウチでゆっくりするのが好きなんだ。でもここに来た時、家以外でこんな幸せそうにしているのを見たことがないよ。彼が楽しんでいるのがすごくよかったよね。僕ら二人ともすごく楽しんでいるよ。

石井アナ:福岡に行ったとき、お父さんが「ショッピングに行きたい」と言ったことは、お父さんにとってすごく特別なことなんだよね。

デュプランティス:うん、彼はあまりショッピングしないからね。父は僕のコーチなんだけど、別で本業もやっていて、弁護士なんだ。たいていアメリカにいて、僕は母とスウェーデンにいるんだ。だから、彼はゴルフをやるんだけど、基本それしかしないんだ。でも本当にここでの時間を楽しんでいるよ。ここまですごく楽しかったし、まだ数日あるからたっぷり楽しめる。たいてい試合の後はどこにも行かず直帰するんだけど、何だかここにいたい、って思わされるんだよね。すごく素敵な街だし、うまく言葉にできないけどそう思っているよ。

石井アナ:最後ですが、日本のファンに言葉をお願いします。

デュプランティス:心の底から言いたいのは、昨日(15日)観戦してくれた皆さん、本当にありがとう。世界中の皆、特にスタジアムに来た皆、応援してくれてありがとう。僕のジャンプを見るために来てくれてた皆さんも、僕の中でそれがすべてだったし、試合の中ですごく支えになった。暑かったし、最後の方疲れがたまっていたので、最後の一押しをしてくれて本当に支えになったし、それが世界新記録につながった理由だと思う。ここにいてこの瞬間を皆とシェアできるのがすごくハッピー。たくさんの応援と愛をありがとう、日本を楽しんで、そしてまた戻ってきます、約束します。

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