大学ラグビー界、関西の雄・同志社大学ラグビー部。近年は関西リーグの優勝から遠ざかり、大学選手権でも結果をなかなか残せずにいる。そんな名門の復活をかけて、新シーズンに挑む「紺グレ」ジャージに迫る。
監督が選手に問うた「決意」
ラグビー部OBの永山宜泉氏(55)が監督に就任 この記事の写真は9枚一昨年、創部以来初めて「全敗」という屈辱を味わった同志社大学ラグビー部。低迷からの脱却を目指すべく、今年、ラグビー部OBの永山宜泉氏(55)が監督に就任した。
永山監督が選手に問うたのは、ラグビーにかける決意、そして「自分に勝つこと」だ。
永山監督「まずは、自分に勝てと。本気で自分に打ち勝てる人たちは、勝手に試合にも勝つので」
自分に勝つことからすべてが始まる。妥協を許さず、自らを追い込む厳しい練習が始まった。
名門復活に向け、限界に挑戦する、ワイルドな奴らである。
ラグビー部を続けるか…意志確認も
日本で3番目に古いラグビー部京都府の南部に位置する京田辺市。ここに、大学ラグビー界の名門、同志社大学ラグビー部がある。創部は1911年。慶應大、京都大に次ぐ、日本で3番目に古いラグビー部だ。
その歴史は栄光そのもの。大学選手権では、林敏之さん(65)や「ミスターラグビー」こと平尾誠二さんらを擁して日本一に輝くこと4回。関西リーグ優勝は、実に48回を数える。
だが2023年、初の7戦全敗で入れ替え戦を経験。2024年も6位に落ち込んだ。2015年を最後に、関西リーグ優勝から遠ざかっている。
同志社大学ラグビー部OB 林敏之さん「みんなで応援しないとだめじゃないですか。だいたいね、日本一になろうなんていう奴は変なんですよ。大学のラグビーやって。普通の人はできないんですよ。変なことをね、やってほしいなとは思うんだけどね」
そんな危機的状況のなか、今年、監督に就任したのが永山宜泉氏。身体を張って選手を鼓舞する熱血漢だ。永山監督が就任前、選手たちに本音で語った貴重な映像を手に入れた。
選手たちに本音で語った貴重な場面 永山監督「Bリーグに落ちるかもしれないと言われている同志社。この問題となるチームを受け持つのは、正直誰も嫌です。君たちが本気じゃなかったら僕、嫌なんですよ。この腐り切った同志社に入るのは。弱い奴とつるんだら、弱くなります。本気で勝ちたい人だけが、継続意志確認を出してください」
部員に求めたのは、ラグビー部を続けるかどうかの意志確認。ラグビーを本気でやる気がある者だけが活動を続け、やる気がない者は退部するよう決断を迫ったのだ。
永山監督「同志社大学ラグビー部はサークル化していっていますと。体育会ではないと。就職するために、同志社大学体育会ラグビー部という看板がほしいという子が結構いると。籍は置いているけど、やらないという子が結構いると聞いて。そういう子らを排除しないと、逆に一生懸命頑張っている子たちがかわいそうなので。そこは心を鬼にして、そうじゃない子は『やめてください』と言いました」 同志社大学ラグビー部 小林弦英主務(4年)
「(Q.実際やめた人は、どのくらい出たんですか?)10名くらいいます。厳しい状況に耐えられないというか。そのまま続ける自信がないということで、入部の同意書を書かなかった部員もいました」
試合終わりでも続く限界への挑戦 精神面に変化も
大阪で、老舗の和菓子店を経営する永山監督。午前4時に起床。和菓子を作ってから、グラウンドに行き、ラグビーを教えた後、また夜、店に戻る。
老舗の和菓子店を経営する永山監督 永山監督「今ちょうど夏休みで、朝も夜も練習するとなると、もう自分の本業はほったらかしで。妻やスタッフたちにお願いして、練習が終わって、夕方帰ってきて、みんなが帰る時間になってから、デスクワークしているって感じです」
永山監督は同志社を卒業後、社会人の強豪チームに進んだ。しかし社会人4年目の時、和菓子店を経営していた父が亡くなり、跡継ぎとして借金を抱えていた店を任される。26歳、突然の現役引退だった。
永山監督「自分自身が大好きだったラグビーを急にできなくなったので。その時、つらい思いする、苦しい心になるので。彼らに早く、毎日の練習の一つひとつが大事だということを早く気づかせてあげることで、後になって引退する時に『あの時、もったいなかったな』と思うことがないようにしてあげたい」 泥臭く、愚直に何度も何度も同じ練習を繰り返すことにこだわった
個人の能力をいかした自由な展開ラグビーをプレースタイルとしてきた同志社。永山監督は、接点での強さを得るためフィットネスを中心とした基本にこだわった。泥臭く、愚直に何度も何度も同じ練習を繰り返す。
永山監督「同志社の選手は、基本はあまりやらずにテクニックの部分ばかりやるので。決まったらすごくうまく見えるんですけど、プレッシャーがきついなかでは、それはできない。どんな厳しいプレッシャーのなかでもできるプレーを延々と練習すべきだと。それって面白くないので、つらい練習だと思うんですけが、それをやらせないといけないと思っています」
試合終わりでも、限界への挑戦は続く。
永山監督「40分以下と60分以下ね」
前半後半合わせて80分間試合に出ていない選手には、アフターフィットネスが課せられる。
80分間走ることができる体力をつけるため、選手は自分自身を追い込んでいく。
同志社大学ラグビー部 FL 廣崎颯太選手(4年)「もう足プルプルですもん」
「(Q.どうですか、このアフターフィットネスは?)しんどいですけど、結局試合できつくないようにするためなので。自分達のためなので、頑張ります」
副キャプテンの林慶音選手(LO/NO8 4年)。監督の指導で、精神面が大きく変わったという。
林選手「今までこれをしてきたから、自分たちは大丈夫いけるという自信がすごい必要だなと感じて。監督がよく、『しんどくなってからが一番成長する時や』と言われていて。立ち返る場所というか、自信というところでは、今年はすごい自信を持って1試合1試合挑めるのかなと」 同志社大学ラグビー部 FWリーダー LO/FL 山田虎希選手(4年)
「監督が『勝たしてあげるから』って。『俺について来れば絶対勝てるから、同志社は変われるから』って言ってくれたのが、僕にとっては印象的で。ラストイヤー、頑張ろうという気持ちになりました」 練習終わりの用具片付け、寮のトイレ掃除も4年生の役割に
変わるための努力は選手からも。練習終わりに用具の片付けをするのは4年生の担当だ。さらに、寮のトイレ掃除も4年生の役割に決めた。便器には、担当する4年生の名前のシールを貼り、それぞれの責任のもと掃除を行う。
林選手「強いチームって、4年生がかっこいい先輩であったり、下級生から信頼してもらうことで、みんながついて行こうという意識になって、強いチームができるというふうに考えていて。4年生がこういう嫌なことをすることによって、ついていこうと思ってもらえるような先輩になろうということで始めました」 広告 選手たちに共通する「重大な欠点」
選手たちに共通する「重大な欠点」
恒例の菅平合宿、成果を試す最後の練習試合。相手は日本大学。試合前のミーティングで、永山監督は次のように話した。
永山監督「この合宿で、みんないっぱい走ってきたやん。それを見せるチャンス。その違いを自分らで確かめに行きましょう」 ハンドリングエラーなどミスが相次いだ
ピンクのジャージが日大、紺にグレーのジャージが同志社。序盤からスクラムで何度も圧倒するものの、ハンドリングエラーなどミスが相次ぐ。
33対19で同志社がリードして迎えた後半20分。最後のきつい時間帯こそ、練習してきたフィットネスと精神力が試される。その成果が発揮し始める。同志社は立て続けにトライを重ね、52対19で勝利した。
林選手「きょうの試合も、まだまだ走れるなと思っていたので。フィットネスの部分は、本当に大きな自信というか、走ってきた分の力がついたかなと思います」
夏合宿を終えると、公式戦開幕は間近となる。日大戦を分析する永山監督は、選手たちに共通する重大な欠点を見つけていた。
永山監督「パスミスが起こった時点で、(少し離れた場所にいた選手の)足が止まっている。もしかしたら相手がボールを取って、ターンオーバーして、攻めてくるかもしれないので、急いで帰らないといけないんですけど、足が止まるという癖がついてしまっている。そこは直さないといけないなと思います」
監督が課題に挙げたのが、ミスした直後に足が止まること。それを改善するため、選手自ら新たな練習方法を考えた。
試合形式の練習の間にランを挟み、フィットネスを極限まで強化する。きつい状況のなかでも頭をクリアにして精度の高いプレーを続けることが目的だ。
永山監督「バテている時って、ミスが絶対起きるから、そこをチャンスに変えるぞ」
自分達のミスだけでなく、相手のミスに対しても反応できる力を身につける。
同志社大学の開幕戦の相手は近畿大学。去年、50点以上の大差で敗れている強豪だ。しかも、この3年間、同志社は開幕戦をすべて落としている。関西リーグで勢いに乗るためには、開幕戦の勝利は欠かせない。そのために、監督が下した決断とは…。
永山監督「リーダーだから出るということはないよと。ここは実力の社会です。チームで一番必要とされる人が出るべきだと伝えました」
監督の思い切った戦略で、名門は復活するのか?
狙いは?キャプテンやリーダーをリザーブに
公式戦開幕の相手は攻撃力が自慢の近畿大学。永山監督はキャプテンの大島泰真選手やリーダーの石田太陽選手を、先発ではなく、リザーブに回した。
永山監督「どうしても勝ちたいというのがあって。勝つためには1点もやらないというのが一番大事だと思うので、ディフェンスが強いメンバーを(先発に)選択しました」
「ディフェンスでしっかり前に出ていれば、ミスもきっと起こると。そのミスを一気に得点につなげられるようなゲームにできたらいいなと思っています。リーダーたちには、それは伝えてあるので。『出てから爆発せぇ』ということも伝えてある」 29対12で勝利
青のジャージの近畿大学のキックオフで試合が始まった。伝統の「紺グレ」ジャージの同志社大学が迎え撃つ。1トライずつを重ね、5対7で迎えた前半25分。同志社大学のセンターの立川選手が、強烈なタックル。こぼれたボールをキック、最後は上嶋選手がボールをトライゾーンに押さえ込む。練習通り、ディフェンスから相手のミスを得点につなげた。
しかし、近大にトライを返され、同点で前半を終了。後半の半ば、満を持してリーダーたちがグラウンドへ。
後半29分、フィットネスを鍛えてきた勝負の時間。林選手からキャプテン大島選手へ。そのボールを受け取った立川選手がタックルをかわしてトライ!勝ち越しに成功する。
作戦通り前半を手堅く守り、後半から入ったリーダーたちが躍動。29対12で勝利し、開幕戦を飾った。
限界に挑戦し、自分に打ち勝つ 林選手「やっぱり、なによりも勝つことがうれしいことだと実感しました。ファンの方々や、ノンメンバーの応援がすごい力になったので、本当に自分達は死ぬ気で戦い抜けたことが勝利につながったと思います」 山田選手
「めちゃくちゃうれしいです。チームのみんな、勝たせてくれたっす」 ファン
「ナイスパフォーマンス。来週も頼むよ」 林
「勝ちます、来週も。ありがとうございます」 ファン
「ありがとう」 永山監督
「やっぱりラグビーは同志社が強くなければあかんとみんなが言うように、同志社が強くないとあかんと思っているので。ラグビーのファンを増やすうえでも、うちの大学が頑張らないといけないなと思っています」
限界に挑戦し、自分に打ち勝つ。同志社大学復活に向けて、ただひたむきに走るワイルドな奴らである!
ラグビーウィークリー
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