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バックネット裏に、真剣なまなざしでグラウンドを見つめる1人の男性がいました。
初めて、甲子園で公式記録員を務めた佐藤俊行さん(46)です。
その役割はスコアをつけるだけではありません。
ヒット、エラー、フィルダースチョイス、ワイルドピッチ、パスボール、盗塁…。
1つ1つのプレーを判断し、決定する権限があります。
手元のボタンを押すと、スコアボードにはヒットやエラーのランプが点灯します。
佐藤俊行さん
「ボタンを初めて押したときに、スコアボードに点灯した、赤い『H』のマークが忘れられません。『あぁ、これが甲子園か』と感動しました。同時に、自分で判断していることに対する責任の重大さも感じました」
“記録”を担う責任の重さ
かつて高校球児として甲子園を目指していた佐藤さん。

今は北海道の高校教員として、野球部の指導も行っています。
20年前、「記録員が不足している」と誘われたことがきっかけで、地方大会などでの記録員を務めるようになりました。

プレーの判断は決して簡単ではありません。
打球の強さやボールが飛んだ位置、さらに選手の動き方など、あらゆる状況を考慮します。
記録はテレビの実況などに盛り込まれることもあり、いかに速く的確にプレーを見極められるのかが求められます。
佐藤俊行さん
「野球のルールは知っていましたが、スコアは全く書いたことがなかったので、一から勉強しました。すごく責任が重いですし、当時は教材もほとんどなかったので大変でした」
独学の勉強法は“甲子園のプレー集”
判断力を磨くためには、経験を積むことが一番大切だと考えていた佐藤さん。

実際の試合で数多く記録員を務めるかたわら、独自の勉強法も編み出しました。
数年前から甲子園で行われた高校野球の試合を全て録画し、判断に迷いやすいシーンだけを集めたプレー集を作成したのです。

きわどい打球に外野手が飛び込み、ボールがグラブからこぼれてしまったケース。
送球がわずかにそれる中で、ランナーが一斉に進塁したケース。
一見、盗塁が決まったように見える場面でも、キャッチャーがボールをこぼしたのを見てからスタートしたなら、バッテリーエラーと判断します。
深夜や早朝など、家族が寝ている時間にリビングのテレビで編集作業を進めながら、みずからを鍛えてきました。

佐藤俊行さん
「再生しては止めて『これはヒットになるな』など考えながら、実際の記録を確認する。この判断にすごく時間がかかっていたので、なるべく甲子園の実例を何度も見返して“判断力”を鍛えてきました」
いざ憧れの甲子園 あらゆる状況を考慮して
長年の研さんが認められ、北海道代表の公式記録員として甲子園への派遣が決まった佐藤さん。高校球児の時にかなわなかった舞台へ、およそ30年越しにたどりつきました。

(実況)
“ファースト!おっとちょっとはじいた!記録は…ヒットになりました”
「いつも通り落ち着いて」と自分に言い聞かせながら、記録を付けたという佐藤さん。
1つ1つのプレーに、根拠を持って判断します。

佐藤俊行さん
「ファーストが打球をはじいたんですけど、ピッチャーのカバーが少し遅れていたので、捕れていてもヒットだろうと」

この試合、突然の雨で一時、中断されました。
再開後はグラウンド状態の変化も、記録員として考慮しなくてはなりません。
例えば、ゴロを捕球したショートがファーストへの送球ミスをして、バッターランナーが二塁まで到達した場面。
佐藤さんは「内野安打と送球エラー」と判断しました。

佐藤俊行さん
「雨でグラウンド状態が変わったことで、ショートが前に出るとき、少し足をとられているように見えました。送球が正確でもセーフになったと判断し、エラーだけでなくヒットも付けました」
自分の判断1つで、選手の成績も変わります。
高校球児として甲子園という舞台を目指してきたからこそ、その重みを感じながら、記録を付けていきました。

佐藤俊行さん
「甲子園で優勝を目指している学校がほとんどなので、そうした選手の思い切ったプレーに、判断を付ける責任は大きなものがありました。また帰ってから、今大会のプレーを見返して判断を極めていきたいです。記録には“正解”がないので」

球児たちの全力プレーに応えるため、少しでも速く、的確に。
甲子園の熱闘の陰に、球史を刻む公式記録員の奮闘があります。
(2025年8月19日「おはよう日本」で放送)
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