耳が聞こえない、聞こえにくい選手のための国際スポーツ大会「デフリンピック」が11月15~26日、東京、静岡、福島で開かれます。魅力や、大会を通じて期待することは何か。デフ自転車に4大会連続で出場する早瀬久美さん(50)と、大会で手話通訳を担う手話通訳士の保科隼希(としき)さん(27)が語り合いました。
――デフスポーツの見どころを教えてください。
早瀬 「基本的にはオリンピックの種目と同じルールのため、ルールを理解しやすいです。ただ、陸上競技などのスタートはランプの光、サッカーは笛に加えて旗で反則を知らせるというように、視覚的な工夫を採り入れている競技があるのも特徴です。聞こえる人が見ると、魅力的に感じるのではないかと思います」
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保科 「健聴者の選手と比べると、デフの選手と観客の距離は近いように感じます。応援していると、選手と目が合うことも多い。その分、応援しがいがあります」
早瀬 「聞こえない分、選手は目で見て判断することが多いですね。自転車競技で駆け引きするときも、前を見つつ周囲の様子を把握するために視界は広く保っています」
――注目しているデフ選手はいますか。
早瀬 「競技人口が多くないこともあって、デフリンピックには長く競技を続けている選手が多いです。そうした選手たちの努力を感じてもらえたらと思います」
「一方で、元々は健聴者の大会に出ていたけれども、最近になってデフリンピックの存在を知り、挑戦する選手もいます。選手一人一人に注目してもらいたいです」
保科 「2017年のデフリンピックで三つのメダルをつかんだ陸上の山田真樹選手はいつも明るいです。大会ポスターに登場していることもあって、自分の役割を意識して取材などに向き合っているように感じます。山田選手は前回21年のデフリンピックで、コロナ禍によって選手団として大会を途中棄権することになった悔しさを味わいました。それを知っているので、より応援したくなる存在です」
「また、デフバスケットボール男子の越前由喜(26)、女子の丸山香織(26)といった同年代の選手たちにも期待しています」
――聴覚に障害がある人がスポーツをより楽しめるようになるためには、何が必要だと感じますか。
早瀬 「昭和から生きてきた人間としては、だいぶ世界が変わったなと思います(笑)。昔は不便さや悔しさを感じることが当たり前でしたが、そうした経験を積んで生きる術を身につけたし、今は様々なものが便利になりました」
保科 「今はテクノロジーが進歩してきて、例えば音声認識のアプリができたり、役所の受付にタブレットが置かれるようになったりしています。でも、結局は人間だと思います。お金をかけて『はい、解決』みたいなものは、真の解決ではないと思います」
「健聴者は何をすれば良いか、と聞かれることがありますが、これという正解があるわけではない。ろう者と健聴者が世の中に当たり前に一緒にいる、という考えが根付いてほしいと思います」
早瀬 「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)という言葉があります。昭和の頃のような差別はなくなっても、そうした面は残っているように感じます。社会の中に私たちのような人間は当たり前にいます。社会の中にある壁はなくなってほしいです」
――今回、日本で初めてデフリンピックが開催されます。その意義をどのように考えていますか。
早瀬 「『共生社会』という言葉がありますが、社会にはいろんな人たちがいて、すでに一緒に生きている。なので、本来、こうした言葉は必要ないはずなんです。『共生社会』という言葉がいらない社会へとつながることを期待したいです」
保科 「手話通訳の仕事も、増えてほしいなと思います(笑)。個人的には、今回のデフリンピックがろう者の力や手話の力が広く伝わるきっかけになってほしいと思っています」
「今、ろう者が出演する舞台が増えているし、仕事の幅も広がっています。デフ選手のレベルの高さや、メダルを取ったかどうかということだけじゃなく、『ろう者の持つ力が社会に影響を与えている』という見られ方が当たり前になってほしいです」
早瀬 「今、デフリンピックに向けて盛り上がっていると感じますが、大会後が少し心配です。終わったら何もなくなってしまう、ということにはならないでほしいなと思います」
早瀬選手と保科さんは「朝日地球会議2025」に登壇
早瀬選手と保科さんが登壇する「朝日地球会議2025」のオンラインセッションが、10月31日正午から配信開始となります。デフスポーツならではの応援や、聴覚に障害のある人たちとのコミュニケーションについて考えます。視聴無料。申し込みはQRコードから。
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