今年、日本人として初めてアメリカ野球殿堂入りを果たしたイチローさん(52、マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)。そんな記念すべき年でも、イチローさんは変わらぬ愛情で高校球児への指導を8日、9日の2日間に渡って行った。

今年で6年目を迎えるこの取り組みは2020年の智弁和歌山から始まり、21年は国学院久我山(東京)、千葉明徳(千葉)、高松商(香川)、22年に新宿(東京)、富士(静岡)、23年の旭川東(北海道)、宮古(沖縄)、24年の大冠(大阪)、岐阜(岐阜)に次いで通算11校目。イチローさんは今回、新潟県の私立中越高校を訪れた。

中越は夏の甲子園出場12回を誇る強豪。今夏の新潟県大会決勝では新潟産業大付属高を3-2で破り、7年ぶりの本大会出場を決めた。しかし夏の甲子園初戦で、昨夏の準優勝校・関東第一(東東京)と対戦し1-6で敗戦、31年ぶりの甲子園白星には届かなかった。

イチローさんのもとに、中越から丁寧な思いのこもった手紙が届いた。その内容からはよく教育され鍛えられていることが伝わり、イチローさんの野球、考え方、世代が変わっても関わった子供たち、指導者を通じて次に繋げてくれる感触を手紙から得ることができたという。また今回は連合チームという現在の高校野球の現状を知るというテーマもある。連合チームならではの難しさはあるが、挑む気持ちや途中で投げ出さないことの大切さを肌で感じてほしい。これからの日本の未来を担う高校生へ期待して今後も取り組んでいくと、訪問を決めた。

8日のお昼過ぎ、イチローさんは新潟県長岡市の悠久山球場に現れた。この日は、中越と新潟県5校連合チームとの練習試合が行われる。その視察に訪れたのだ。悠久山球場はイチローさんにとって、とても思い出深い場所。1993年6月、当時オリックスでプロ2年目を迎えたイチローさんが、近鉄の野茂英雄さんからプロ入り後、初ホームランを打った記念すべき球場だ。

「大きく考え方を変えた」打撃の原点は野茂英雄さん

目を輝かせる球児たちに挨拶をするイチローさん

イチロー:連合チームのみんなは、チームとしてプレーできないから何チームかが一緒になってプレーする。すごく難しいよね。結束力もなかなか生まれないし、モチベーションをどこに持っていけばいいのか分からない難しさもあると思うけれども。中越っていう新潟でもトップの一角である強豪校との時間はすごく大事な時間だと思うんで。挑んでいく気持ちを大事にして。みんなも今日何かあれば最後まで一緒なんで、ぶつかってきてください、もちろん遠慮なく。よろしくお願いします!

部員たち:(一礼して)お願いします!

イチロー:おぉ、いい声だね。

部員たちが元気よくウォーミングアップを始める中、思い入れのある球場を眺めたイチローさん。93年に放ったプロ初ホームランを振り返った。

スタッフ:32年前のホームランってどんなふうに残ってるものなんですか。感触とか景色とか。

イチロー:覚えているよ。とにかく真っ直ぐを振らなきゃやられるから、もうゴンって振っただけのことなんだけど。嬉しかったよ。嬉しかったけど、そんな味わいのあるものじゃないから。駆け引きの中で生まれたものじゃないし、野茂さんのフォークを打たない限り勝てないわけだから野茂さんには。勝負に勝っているわけじゃないんだけど、結果がそう出ただけの話。

イチ流指導開始!“憧れ”の存在からの教えに熱視線

連合チームで主将を務める池亀選手にアドバイスを送る

練習試合終了後、両チームの選手たちがイチローさんのもとに集まった。連合チームで主将を務める池亀輝選手(2年)は、イチローさんが憧れの存在だという。

イチロー:初めて見て、どんな印象ですか。

池亀:筋肉質だなって。大胸筋とか足の筋肉とか全部憧れだったので。

イチロー:何がきっかけで?

池亀:中一の頃に野球に出会って。Googleで調べたらイチローさんが出てきて(笑)。ライトを中学の時にやって、それからイチローさんの動きを見たり、動画で夜毎日見て勉強しています。

イチロー:参考になった?

池亀:参考になったのは、自分こうやって(正面を向いて)捕る癖があって、ここ(半身の状態)で捕ったらすごいこっち(右)とかこっち(左)に対応できるみたいな。

池亀選手はイチローさんから学んだ捕球体勢について身振り手振りで熱心に伝えた。

イチロー:その視点は素晴らしいね。それは外野手は特に大事にしてほしいところで、送球するときに(右投げが)左前で取ってしまうともう遅いのよ。もう間に合わない。それがここ(左前)で捕ってしまうとタッチアップの部分もここ(ボールの握り替えまで)の距離ができる。さらに体が横にぶれてしまって。常に平凡なフライでも僕はこっち(右の前)。左じゃなくて、必ずこう捕る、顔の前で。動きには必ず理由がある。説明できる状態にみんなもなってほしい。

池亀:はい!ありがとうございます。

イチローさんの指導が始まった。まず一塁から三塁方向へ走って見せ、三塁から一塁へ走って戻る。

イチロー:しっかり歩いたり走ったりできなかったら野球はできない。走りながら作っていく。今パッと見て、どんな印象だった?

部員:幅が大きいと思います。

イチロー:歩幅が大きい。その理由は何だと思う?

部員:股関節をうまく使っている。

イチロー:まさしくそう。走る時、足は後からついてきてる。意識している所は、体の外側のラインから軸をぶらさない。上半身は肩甲骨で腕を振る。ポイントは膝は上げない。腕は後ろに。それをミックスしたのが僕の今の走り。

「やってみようか」と言って中越の選手たちが走る。その後にイチローさんが続く。その姿を食い入るように見つめる選手たち。

部員:(イチローさんは)ストライドが大きくて力がうまく伝わっている。

イチロー:僕はこれを2往復、最後1周してキャッチボールに入っていく。単純に見えて大事なので。

部員:これから自分も取り入れていきたい。

イチロー:ぜひ、モノにしてください。

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