エディオンが強力な3本柱を押し立てて、3位以内に照準を合わせている。クイーンズ駅伝(第45回全日本実業団対抗女子駅伝)は11月23日、宮城県松島町文化観光交流館前をスタートし、弘進ゴムアスリートパーク仙台にフィニッシュする6区間42.195kmコースに、24チームが参加して行われる。区間・距離・中継所は以下の通り。

1区(7.0km)塩竃市地域活動支援センター前
2区(4.2km)NTT東日本塩釜ビル前
3区(10.6km)富士化学工業前
4区(3.6km)聖和学園高等学校前
5区(10.0km)仙台第二高等学校前
6区(6.795km)弘進ゴムアスリートパーク仙台

エディオンの区間エントリーは1区に水本佳菜(20)、3区に矢田みくに(26)、5区に細田あい(29)と強力な3本柱が揃った。水本は今年の日本選手権5000m3位で、東京2025世界陸上代表入りにあと少しと迫った。矢田は東京世界陸上10000m代表、細田はマラソンで2時間20分31秒と日本トップレベルの記録を持つ。主要3区間の力はエディオンが出場チーム中一番ではないか、という評価もある。2、4、6区が課題だったが、主要区間以外の選手の状態とモチベーションも上がっている。

「新しい自分が見られる」と水本

今年のエディオンは強い、と思わせたのが7月の日本選手権だった。5000mで水本が15分13秒19で3位、細田が15分15秒87で4位となったときだった。水本は2位の廣中璃梨佳(24、JP日本郵政グループ)と0.58秒しか差がなかった。4月の日本選手権10000mでは矢田が廣中に次いで2位に。アジア選手権10000mでも3位(31分12秒21の自己新)と健闘し、東京世界陸上代表入りを決めた。

特に成長が著しいのが水本で、東京世界陸上代表こそ逃したが、日本選手権後の米国遠征で15分06秒98(今季日本3位記録)までタイムを縮めた。世界陸上は国立競技場で観戦した。「もしここに立てたらどういう走りができたか、どういう走りをしたいと思うんだろうか、と考えました。悔しい思いも持ちながら見ていましたが、気がついたらものすごく応援している自分がいました。良いものを見せてもらいましたし、良い経験をしたなと思います」

今季の好調は、故障をしなくなったことが一番の要因だという。以前は張りが出ていても「大丈夫やろ」と軽く考えていたが、超音波治療器具を使ったり、セルフケアをするようになった。自身の状態を沢栁厚志監督に細かく報告し始めたことで、微調整を行いながら練習を進められるようになった。「継続して練習ができるようになって、脚もしっかり作れるようになりました」

クイーンズ駅伝は入社して2年続けて1区を走り、区間8位と区間7位。「2年とも夏場にケガをして、駅伝には急ピッチで合わせました。今年は夏場のケガもなく練習を継続できましたね。新しい自分が見られるんじゃないか、というワクワク感があります」

前回は区間賞と14秒差、距離にすると100m弱の差があったが、今年の水本は区間賞を取る力を付けた。「区間賞を意識するより、確実に上位でタスキをつなぐ気持ちで走ります」。その方が自身の力を確実に発揮できる、という判断だ。その水本からタスキを受けるのが、薫英女学院高の2学年後輩の新人・塚本夕藍(19)である。

「直前合宿で調子が上がってきて、どんな走りができるかワクワクしています。3年前の全国高校駅伝でも私が2区で、1区の水本先輩が区間1位でタスキを持ってきてくれたのに、私が順位を落としてしまいました。そのときの悔しさが私の原点になって、ここまで頑張れています。そのときのリベンジの意味も込めて、水本先輩からもらったタスキをパワーに変えて頑張りたいです」。

1、2区の先輩後輩コンビで、エディオンは上位争いの流れに乗る。

矢田の意欲をより強くした世界陸上の経験

3区の矢田は残念ながら、世界陸上に向けて十分な準備ができなかった。沢栁監督によれば7月に足首を捻挫し、回復に約1か月かかったという。回復して本格的に練習を始めたところで新型コロナに感染してしまった。32分28秒94で20位。6位に入賞した廣中には1周抜かれてしまった。

矢田みくに選手

「日本代表として不甲斐なさと、悔しさが残るレースになりました。でもスタートラインに立ったとき、代表になるまでには練習の苦しさから逃げたい、と思うことが何度もありましたが、『ここに立つために陸上競技を続けて来たんだ』と実感できました。競技を続けていく上で軸となる大切なものができた気がします」

結果を出すことはできなかったが、世界陸上の経験が矢田を一回り大きくした。世界陸上後は練習も「大きな舞台に立つための苦しみと思えば、楽しいモノに感じられるようになった」という。3区への出場も、「長い距離を練習してきました。安定感も出てきたので、他チームのエースに食らいついて行きます」と意欲を見せる。

4区の中島紗弥(26)は矢田と同学年。矢田が高卒で他チームも経て、立命大卒の中島より5か月遅れて入社した。中島も学生時代に日本インカレ5000mに優勝した選手だ。「矢田がどんどん力を付けていくのを間近で見てきました。もちろん才能もあると思いますが、自分に必要な練習をしっかり考えて、自分を作っていく様子は参考になりましたね。誰にでも強くなるチャンスはあると、思うことができました」。

任されたのはインターナショナル区間の4区。「後ろから速い外国の方たちが来ることは当たり前。そこに怖さはありません。最大の力を出して細田さんにつなぎます」。不退転の覚悟で走る。

細田は区間賞の昨年よりも良い状態

5区の細田は3月の東京マラソンで2時間27分43秒で13位(日本人2位)、東京世界陸上代表を逃したが、前述のように7月の日本選手権5000mで自己新をマークして4位と好走した。8月のシドニー・マラソンでは2時間23分27秒で6位。27年秋開催予定のMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ。ロサンゼルスオリンピック™最重要選考会)出場権を獲得した。

細田あい選手

沢栁監督も本人も、「ここまでの記録が出ると思っていなかった」と異口同音に話す。5年近く世界大会の選考レースに出場し続けて来たため(東京五輪は補欠代表)、「少し気楽に走りたい、と本人から申し出があったんです」と沢栁監督。「最長で30kmまで。40km走はやっていません」という練習だった。

しかし、練習のレベルをただ落としたわけではなかった。細田自身が「40km走はやっていませんが」と説明してくれた。「補強を多く行ったり、アップダウンを多く走ったりして筋力強化をしました。以前から上半身の動きが悪く、動きに左右差があることがケガの原因だと思って、肩甲骨から腕を振る走り方に取り組んできました。中殿筋などの支える部位もトレーニングをして、脚の外側のラインに張りが出なくなってきましたね。それらが(起伏の多い)シドニーのコースに耐えられた要因かな、と思っています」

駅伝に向けても故障がなく準備ができた。昨年も5区で区間賞を取っているが、「だいたい駅伝前にアクシデントがあって、万全の5区ではありませんでした。今年は練習が積めているので、“楽しみ”があるかもしれません」。3、4区でトップから30秒くらい後れても、今年の細田なら逆転するかもしれない。

そして6区は「主要区間の3人と同じ練習ができている」(沢栁監督)という平岡美帆(25)が、昨年に続いて任された。昨年は区間15位で、3位でタスキを受けたが5位に順位を落としてフィニッシュした。「私が順位を守れていたら、エディオンの過去最高順位だったんです。すごく悔しかった」と平岡は振り返る。エディオンは22年に1区の萩谷楓、5区の細田、6区の矢田が区間2~4位で走り4位に入賞した。

「この1年で妥協しそうになったとき、クイーンズ駅伝のゴール後の悔しさを思い出して自分を奮い立たせてきました。アンカーは一番走りたい区間ですが、一番怖い区間でもあります。でも、去年の分まで良い走りをすることで、自分自身の殻を破ることができる。やっとリベンジができます」

沢栁監督は「今年の平岡には、もらった順位を維持できる走りを期待したい」という。もちろんタスキを受けた時のタイム差で状況は変わってくる。5区の細田が1~3位で平岡にタスキを渡すことができれば、ハラハラドキドキの争いが繰り広げられる。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

*トップ写真は水本佳菜選手

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