2026年最初のスポーツ日本一が決まるニューイヤー駅伝 in ぐんま(第70回全日本実業団対抗駅伝競走大会。群馬県庁発着の7区間100km)。

前回4位のGMOインターネットグループは、東京2025世界陸上マラソン代表の吉田祐也(28)を1区に起用。「チームに勢いをつける」(吉田)走りをするつもりだ。2区は前回区間2位の今江勇人(27)で、前回同様2区でトップに立つ可能性がある。前回順位を落とした3区は2年連続鈴木塁人(28)で、今季は10000mの自己記録を大幅に更新した。5区には箱根駅伝3区と4区の日本人最高記録を持つ太田蒼生(23)、6区には前回区間賞の嶋津雄大(25)、アンカーの7区には屋外5000m学生歴代2位の鶴川正也(23)と、最後までトップを維持できるメンバーになった。

◇ニューイヤー駅伝(1月1日)の区間と距離、中継所
1区 12.3km 群馬県庁~高崎市役所
2区 21.9km 高崎市役所~伊勢崎市役所
3区 15.3km 伊勢崎市役所~三菱電機群馬工場
4区 7.6km 三菱電機群馬工場~太田市役所
5区 15.9km 太田市役所~桐生市役所
6区 11.4km 桐生市役所~伊勢崎市西久保町
7区 15.6km 伊勢崎市西久保町~群馬県庁

吉田は1区で「チームに勢いをつける」役割

トップバッターを世界陸上代表だった吉田が務める。18年箱根駅伝では4区で区間記録を24秒も更新し、その後はマラソンで日本代表まで成長した。速いスピードで押して行く走りを得意とし、2区への適性も高い。だが思い切った走りができることも吉田の特徴で、24年東日本実業団駅伝は1区を独走して区間賞を獲得。前回のニューイヤー駅伝1区は区間賞の長嶋幸宝(21、旭化成)と2秒差の区間4位だったが、前半から前に出て、他の選手たちのラスト勝負の力を削いだ。

「僕が(上位で)走ればチームが勢いづきます。区間賞を取れたら一番よかったのですが、先頭を走って区間3位以内という想定していた走りは、ほぼできました」

区間3位の三浦龍司(23、SUBARU)とは同タイム。三浦は23、24、25年と3000m障害で五輪&世界陸上3年連続入賞中で、ラストスパートを得意とする選手。そのくらい前回の1区はレベルが高かったが、吉田がつけた勢いは今江がしっかり受け取り、GMOインターネットグループは2区でトップに立った。

26年大会も目的は同じだという。「順位、タイムよりも、1区で僕が勢いよく行くことです。今年はチームのみんながさらに、やるぞ、という雰囲気になっていますから、僕が攻める姿勢を見せることでチームの勢いが増すはずです」

世界陸上は34位と、力を出し切れなかった。レース展開的にも経験不足といえる部分があったし、準備段階でも「設定通りのタイムで走っていても、すごくバランスの悪い走りで、走り込める感覚ではなかった」と課題が残った。

しかし金銀メダリストが30歳代で、銅メダリストも2週間後に30歳になる選手だった。かつて一緒にトレーニングを行った大迫傑(34、リーニン)は、12月に2時間04分55秒と日本記録を1秒更新した。「世界陸上では経験値が重要だと感じました。大迫さんも34歳なのに、年齢を言い訳にしないでやることをやる姿勢は本当にすごいと思います。精神力や目標に対する執着心は、なかなか真似できません。自分に妥協しないで積み重ねることが大事なんだと、改めて教えられた気がします。自分の競技に向き合う姿勢は全部大迫さんから学んだので、僕も頑張らないといけない」

吉田の強い気持ちが1区の走りに現れた時、GMOインターネットグループに大きな弾みが付く。

最長区間の今江は区間賞に意欲

今江の前回2区の走りが素晴らしかった。吉田からトップと2秒差でタスキを受け、序盤から自身が先頭に立った。前に出されてしまっている、という見方もされたが、今江はしっかりした考えを持って走っていた。

「トヨタ自動車(鈴木芽吹・23)が中継で11秒後ろだったのに、先頭集団が牽制する雰囲気があったんです。その11秒を詰められるのはもったいないと思って、自分が前に行きました。自分でレースを作るための練習はしていたので、自分の決めたラップを淡々と刻んで行けば、自ずと良い結果が出る」

1区の吉田がライバルチームにつけた差を有効に活用したが、いきなりその走りができたわけではない。2区のコースやレース展開を前年の経験も元に検証し、ペースが速くなるところや、ペースに乗りにくいところなどを練習の中で想定して走った。集団で練習するときも前に出たり、後ろで我慢したり、ペースをコントロールした。

中継直後は7チームだった先頭集団を5km過ぎには5チームに、13km付近ではGMOインターネットグループ、旭化成、Hondaの3チームに絞っていた。15.5kmの上福島の交差点を左折し、今江が「2分55秒を超えないように」と予定していたペースで踏ん張ると、まずHondaが後れ、間もなく旭化成も離れていった。

だが代わってトヨタ自動車と花王が追い上げてきた。花王の池田耀平(27)は区間賞を取るのだが、トヨタ自動車の16秒後方から追い上げていたため余裕はない。トヨタ自動車の鈴木は24年の日本選手権5000m3位、10000m4位だった選手。今江は19km付近で6秒差まで迫られていた。「鈴木選手への声援がだんだん近くなっていました。もうひと踏ん張りしないといけない、と思ってギアを入れ直したシーンもありました」。今江はトヨタ自動車との差を中継時と同じ11秒に戻して3区にタスキを渡した。

11月3日の東日本実業団駅伝1区でも区間賞を獲得し、同22日の八王子ロングディスタンス10000mでも6組1位、27分33秒84と自己記録を9秒更新した。3年連続となる2区で、今回はどんな走りをしようとしているのか。

「吉田が前回みたいに、それなりに前で来てくれると思うので、2区終了時点でトップに立つか、秒差で3区に渡すことが仕事だと思っています。駅伝を走る者として、ニューイヤー駅伝の区間賞は他の駅伝とは違うものがある。それが最長区間の2区の区間賞なら、なおさら嬉しいこと。そこを目指してしっかり走りたいと思います」

今江の走りが崩れることは考えにくい。2区終了時点でGMOインターネットグループが優勝争いをしている確率は、かなり高いのではないか。

3区以降の選手たちも自身の状態に手応え

GMOインターネットグループは3区の鈴木塁人の走りがカギを握る。前回は区間13位でトップから3位に後退した。SGホールディングス時代の3回を含めると、今回で5年連続3区となり、23年には区間5位の実績もある。前回は「トップで来ることも想定していませんでしたし、力不足も痛感しました」と、心身とも準備ができていなかった。

しかし現在は「陸上をやって来た中で一番良い」と言えるほど状態が良い。「誰よりも走ってきて、粘り強さのベースが上がりました。去年の2倍強くなっています。借りを返しに行きます」

4区は前回区間3位で東京世界陸上ケニア代表と実績のあるK.ジャコブ(24)ではなく、M.テモイ(20)が走る。伊藤公一監督(49)は「向かい風対策です」と起用理由を説明。かなりの自信を持って送り出す。

5区の太田は「早めにトップをつかまえたい」(同監督)という意図での起用。東日本実業団駅伝以後はスピード練習も順調で、大学3年時の箱根駅伝3区のように、ハイペースで入ることも可能だと伊藤監督は見ている。6区の嶋津は前回の区間賞選手。「前回は“絶対に走れる”感覚でした。前回の感覚と同じか、それ以上の感覚を持てる走りをしたい」

7区の鶴川はラスト勝負に絶対の自信を持つ。「先頭でもらえば追いつかれても、最後で勝てばいいですし、追う展開でも数10秒ならすぐに追いついてプレッシャーをかけます。相手が先にロングスパートをしても、必ず対応します。どんな展開になっても最後の勝負には絶対に負けません」

初出場の20年大会以降、社のスローガンでもある「ナンバーワン」を目標としてきたが、選手たちの盛り上がりは今回が過去最高だ。伊藤監督は「ライバルチームの1、2、3区も強いので、3区終了時には先行されても仕方ない」と覚悟している。「30秒までなら、4区以降で逆転できるチャンスが大きいと思っています。その大きなポイントが5区の太田です。(5km付近の)松原橋までに先頭をつかめて欲しいですね」

そうなれば6、7区で逆転されることはない。その自信が持てる布陣になった。創部10周年のGMOインターネットグループが、初の“ナンバーワン”の座に就くチャンスが来た。

※写真:吉田選手(左)、太田選手

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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