俳優や作家、経営者など各界の皆さんにお薦めの本を紹介していただく特集「あなたに贈る本」。今回は、元テニスプレーヤーの松岡修造さんにこれまでの読書で培った考え方やお薦めの本を通じて、若い皆さんにエールをおくっていただきました。

特集「あなたに贈る本」

 若い読者が聞いたら非常に勇気づけられると思いますが、僕はもともと本が苦手でした。文字を追うのが得意ではなく、小学生の頃は1冊の本を読破することすら、ほぼありませんでした。それがなぜ好きになったのか? 実に明快でシンプルに、時間ができたからです。

 高校時代に単身で米フロリダ州タンパの高校にテニス留学し、その後プロに転向しました。海外を転戦し始めた頃は、専属のコーチがいたわけでもなく、知り合いがいたわけでもない。しかも試合や練習、トレーニングが終わればやることもないので、余った時間を何かで費やさなくてはいけない。そこで唯一友達になったのが、本だったのです。

 当時は時間さえあれば読書をしていました。好んで読んでいたのは、徳川家康や宮本武蔵などの歴史シリーズです。とくに宮本武蔵は何度も読み返していましたが、その時々によって自分の中で捉え方が変わるのが面白かったですね。

 ツアー中は赤川次郎さんにハマって、新刊が出たらすぐ日本から送ってもらうほど。おそらく全シリーズ読んだと思います。主人公の顔やシーンをイメージしながら読み進めると、まるで映画を見ているようで楽しかったです。

 そんな中、テニスのランキングがなかなか上がらず苦しんでいる時に出会ったのが、中村天風先生の「成功の実現」(日本経営合理化協会)や、「メンタル・タフネス ストレスで強くなる」(CEメディアハウス)でした。自分のネガティブな部分をポジティブに変換する方法を学びました。このメンタルトレーニングは、当時のパフォーマンス向上に役立っただけでなく、現在の僕の〝前向きキャラ〟のベースになっています。

 いまは、あえてストーリー性のある本は読まないようにしています。というのも、楽しいのはわかっているし、読み始めたらドラマと同じでハマってしまう恐れがあるから(笑)。どちらかというと、哲学書やハウツー本を意識して読むようにしています。

 僕の読書法はちょっと変わっていて、本の書き手が1+1=2のメッセージを伝えてきたら、そこに自分なりの解釈を加え、1+1=3として捉えるようにするんです。本に操られない読書とでもいいましょうか。「自分はこう思う!」と感じたことを余白に書き込み、本から得たプラスアルファの知識を実生活に生かすようにしています。本によっては速読することもあります。読むというよりも「映像化していく」と表現したほうが正しいかもしれません。

 このテクニックは想像力を鍛えるのに効果的で、テニスのジュニア合宿でも応用しています。ジュニアたちにプロテニス選手の素晴らしいプレーを見せた後、自分自身がチャンスボールをしっかり決めて、ガッツポーズしている姿を何度も頭の中でイメージしてもらうんです。その直後にプレーすると、思い描いたとおりに体が動く。イメージの力は底知れません。

 以前、脳科学者の茂木健一郎先生から教わって興味深かったことは、自分が嫌だなと思うことは、実は脳はめちゃくちゃ喜んでいるそうなのです。それを聞いて、僕は難しくて避けていた新聞の社説欄を「脳が好物だから」と意識して読むようにしたところ、気付けば習慣になっていました。

 ですので、いま本が苦手でも、とにかくページをめくってみましょう。何冊も読んでいるうちに、いつの日か読書が日常になっているはず。本から得られる気付きやヒントはきっと皆さんの人生を豊かにしてくれます。とにかくやってみることが、夢をかなえる一歩なのです。

松岡修造さんお薦めの本

「本の読み方」で人生が思い通りになる 読書革命

金川顕教

総合法令出版

1540円

 本を読むのは一つのテクニックである。著者は会計士だけあって的確に効率よく本を読むヒントを伝えてくれる。いままで僕が実践していた読書法も多く紹介され、正しい方向性を再確認できた。いますぐに本を人生に活用したいと思える一冊。

漫画 バビロン大富豪の教え

ジョージ・S・クレイソン原著

坂野旭イラスト/大橋弘祐脚本

文響社

1782円

 生きる上での根本的なこと、人間力を学べる。パートごとにしっかりと説明があり、人生を重ねていく中で大事なメッセージが込められている。何のために生きるのか? 自分の考えを確立する助けにもなる本。時代は流れてもお金に振り回されないポイントは変わらない。

森信三一日一語

寺田一清編

致知出版社

1257円

 尊敬する森先生の「修身教授録」から、ジュニア選手たちに指導するにあたり、大きな希望をいただいた。先生の軸は〝感謝〟から始まる。その思いを毎日注入していくなかで、だんだんと自分にも感謝する力がわいてくる。自分の誕生日にかけてくれる先生の言葉が胸を打つ。

松岡修造さんからのメッセージ

 自分のイメージで、自分だけの形で感じることができるのが本を読む特権。捉え方、イメージの描き方は自分流でいい。本との出会いが、僕と同じように君の人生を変えるきっかけになる。本は皆さんの人生を豊かにする。さあ、本から学ぼう、仲間になろう、いや今日から君も本になろう!

略歴

 まつおか・しゅうぞう 1967年、東京都生まれ。10歳からテニスを始め、86年にプロに転向。95年のウィンブルドン選手権で日本人男子として62年ぶりにベスト8に進んだ。98年に現役を退き、ジュニア育成とテニス界発展に尽力する一方、スポーツキャスターなどメディアでも活躍する。

お知らせ

 ◆「あなたに贈る本」は、新聞や出版、書店業界の情報紙などを発行する文化通信社(東京都千代田区神田錦町)と協力した特集です。

 各界の皆さんが若い世代に薦める本をまとめた「先輩の本棚」、子ども向けの絵本などをまとめた「ボクニキミニ」という同社発行の冊子や、同社による新たな取材などからインタビューやお薦め本の記事を選び、紹介しています。

 本の価格は税込みです。

 文化通信社は、本好きのためのオンラインコミュニティー「ほんのもり」(会員制)を運営しています。著名人が本について語るイベントを開催したり、会員同士が好きな本を語り合う場を設けたりしています。詳しくはURL(https://honnomori.online/)からご覧ください。

 また、「著名人が選んだ本と向き合う、静けさの100分」をコンセプトにした予約制の私設図書室「ほんのもり 駒込本家」を東京都豊島区に開設しました。1回につき100分の入れ替え制です。「ほんのもり」の会員は特別料金で利用できます。こちらのURL(https://honnoie.jp/)でご確認ください。

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