ダイヤモンドリーグは単日、または2日間開催では世界最高レベルの陸上競技会で、今年は4月16日の厦門(中国)から8月27~28日のチューリッヒ(スイス)まで15大会が開催された。リーグ終盤の8月はシレジア(ポーランド・8月15~16日)、ローザンヌ(スイス・8月19~20日)、ブリュッセル(ベルギー・8月22日)、そして最終戦のチューリッヒ(8月27~28日)の4大会が行われた。女子では最終戦の走高跳でN.オリスラガース(28、豪州)が2m04の今季世界最高で優勝。世界記録(2m10)保持者のY.マフチク(23、ウクライナ)を2センチ差で破った。女子800mでは今季試合に出場していなかったK.ホジキンソン(23、英国)がシレジア、ローザンヌと2連勝。9月13日開幕の東京2025世界陸上ヒロイン候補たちの、ダイヤモンドリーグ終盤戦の動向を振り返る。

女子走高跳は東京で世界陸上最高レベルの戦いか?

最終戦チューリッヒ大会の女子走高跳がヒートアップした。2m00を超人BIG7の1人のマフチク、オリスラガースら4人がクリア。2m00を跳んだのは昨年のパリ五輪が上記の2人、一昨年のブダペスト世界陸上はマフチクだけだった。次の2m02は、5月にマフチクが跳んだ今季世界最高とタイの高さ。そのバーをオリスラガースが1回目に、マフチクが2回目にクリアした。レベルが極めて高い戦いになっていた。
 
次の2m04を、試技順が先のオリスラガースが1回目に成功すると、マフチクはこの高さをパス。仮に2m04を1回目で跳んだとしても、2m02で1回失敗したマフチクは、失敗試技数の多さで負けてしまう。バーを上げていく走高跳と棒高跳ではよく見られる光景だが、次の高さを跳べなければ逆転はできない。この日のマフチクも次の2m06を3回失敗し、オリスラガースが25年ダイヤモンドリーグ優勝者となった。

オリスラガースは「2m04はここ何年も跳びたいと思っていた高さです。コーチはダイヤモンドリーグの連戦をすることを考えていませんでしたが、決定を変えてよかった。(跳べなかった)2m06も学びも多かったですね」とコメントした。

マフチクが世界陸上を連覇するには、好調のオリスラガースに勝たないといけなくなった。つまり東京世界陸上で優勝するには、2m05以上の記録が必要になる可能性が高い。過去の全ての試合において、2人が2m05以上をクリアしたことは2試合しかない。世界陸上で実現すれば初めての快挙となる。

ホジキンソン、ツェガイ、キピエゴンと、シレジア大会で好記録続出

800mでも今季世界最高記録が誕生した。パリ五輪金メダリストのK.ホジキンソン(23、イギリス)が、シレジア大会で1分54秒74の今季世界最高で優勝。ローザンヌ大会も1分55秒69で制した。

ホジキンソンにとってシレジア大会は、パリ五輪以来1年と15日ぶりのレース。「準備はできていた」と言うが、シーズン初戦で1分54秒台には驚かされた。「東京世界陸上まで今日とローザンヌしかレースがないので、速いタイムで走りたかった」。

パリ五輪では1分56秒72とタイムは速くなかったが、T.ドゥグマ(24、エチオピア)に0.43秒差で競り勝った。ラストの強さは昨年実証済みなので、ダイヤモンドリーグで速いペースに対応できることを確認できれば、東京世界陸上の優勝確率が上がる。

シレジア大会にはホジキンソン以外にも、中・長距離の東京世界陸上ヒロイン候補が集結した。1500mではG.ツェガイ(28、エチオピア)が3分50秒62の今季世界2位記録で優勝。B.チェベト(25、ケニア)に4秒強の差をつけて圧勝した。同大会は3000mも行われ、超人BIG7の1人、F.キピエゴン(31、ケニア)が8分07秒04の世界歴代2位記録で優勝した。

キピエゴンは前回ブダペスト大会では1500mと5000mの2冠。東京でも連続2冠を狙ってくるだろう。シレジア大会は両種目の間の距離で、スピードとスタミナの両方を確認する狙いだったと思われる。

1500mでは昨年のパリ五輪も金メダルを獲得したキピエゴン。今季も3分48秒68の世界記録をマークし、絶対的な本命に挙げられている。シレジア大会3000mは過去32年間の世界最高タイムで、2位に27秒もの大差をつけた。連続2冠へ準備万端といったところか。

しかし昨年のパリ五輪で5000mと10000mの2冠を達成し、キピエゴンの2冠を阻止したのがチェベトだった。昨年10000mで28分54秒14、今年は5000mで13分58秒06と、両種目とも“壁”を破った唯一の選手となっている。5000mの世界記録は前世界記録保持者のツェガイと直接対決したレースで破っている。

チェベトはキピエゴンに、パリ五輪では勝ったが今季は5000mで直接対決はしていない。シレジアで1500mに出場したのはキピエゴン対策として、スピードを出すレースをしたかったのかもしれない。

ツェガイは22年世界陸上オレゴン5000m、23年世界陸上ブダペスト10000mの金メダリスト。1500mでもオレゴンで銀メダルを獲得した。昨年、今年とキピエゴンとチェベトのケニア・コンビに押され気味だが、もう一度女王の座に返り咲きを狙っている。

ツェガイで注目されるのは種目選択だ。ディフェンディングチャンピオンとして10000mのタイトルにこだわるのか。その場合は目の前で、自身の世界記録を破られた5000mとの2冠を狙ってくるだろう。あるいはシレジア大会で圧勝した1500mで、キピエゴンに勝負を挑むのか。

日本勢では田中希実(26、New Balance)がシレジア大会3000mで8分45秒80の13位、ブリュッセル大会5000mで14分37秒19の9位という成績だった。5000mは自己4番目のタイムで、一昨年、昨年と9月にシーズンベストを出していることを考えると、東京世界陸上の5000mで2大会連続入賞が期待できる。

東京世界陸上の女子中・長距離3種目の実施日は以下の通りである。

1日目(9月13日):1500m予選、10000m決勝
2日目(9月14日):1500m準決勝
4日目(9月16日):1500m決勝
6日目(9月18日):5000m予選
8日目(9月20日):5000m決勝

投てき種目は金メダリストたちが好調、北口もケガからの復調に自信

投てき各種目は、金メダリストたちが健在ぶりを示している。

砲丸投はJ.スヒルデル(26、オランダ)が最終戦チューリッヒ大会に20m26で優勝。年間でもダイヤモンドリーグ4勝と安定感もある。しかし前回のブダペスト金メダリストのC.ジャクソン(31、アメリカ)も、ブリュッセル大会に20m90で優勝。年間3勝で、20m95のシーズン世界最高も出している。21mを超える記録を期待できるのはジャクソンか。ジャクソンが勝てば世界陸上3連勝となる。

円盤投はパリ五輪金メダリストのV.オールマン(30、アメリカ)が、最終戦に69m18で優勝。ダイヤモンドリーグ6戦6勝、4月には73m52の今季世界最高、世界歴代6位と死角はない。

ハンマー投はダイヤモンドリーグ種目ではないが、C.ロジャーズ(26、カナダ)がシレジア大会で75m39で優勝。今季10戦9勝と抜群の勝率を誇る。オールマンとロジャースのパリ五輪金メダリスト・コンビは、東京世界陸上にも優勝候補の絶対的本命として登場する。

それに対して女子やり投は、パリ五輪金メダルで超人BIG7の1人、北口榛花(27、JAL)が故障の影響でローザンヌ大会が50m93の10位、最終戦チューリッヒ大会が60m72の6位と、8月のダイヤモンドリーグで上位に入っていない。

ローザンヌ大会はA.ヴィラゴシュ(21、セルビア)が63m02で優勝し、2位に4m強の差をつけた。最終戦チューリッヒ大会はE.ツェンコ(23、ギリシャ)が64m57で優勝。ヴィラゴシュは62m96で2位だった。

ダイヤモンドリーグ6戦4勝のツェンコと、ダイヤモンドリーグは1勝だが2位が3試合あり、67m22のシーズン世界2位記録を投げているヴィラゴシュが世界陸上では金メダル候補か。今季65m89のU20世界記録を投げた顔子怡(18、中国)がダークホース的な存在だ。3人とも若手で勢いがある。

もちろん北口も、金メダル候補から外せない。8月31日の取材に「ひじの痛みはない」と明言した。「痛めた箇所ではない部位が上手く動かなかったり、痛みが出たりして投げられませんでしたが、チューリッヒでやっと普通の投げができました。ひじ以外のコンディションはパリ五輪より仕上がっている自信はあります。ケガをしましたが、目標は金メダルで変わりません」。

23年のブダペスト世界陸上、昨年のパリ五輪と連続金メダルの北口が、若手の勢いを押し返すつもりだ。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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