ダイヤモンドリーグは単日、または2日間開催では世界最高レベルの陸上競技会で、今年は4月16日の厦門(中国)から8月27〜28日のチューリッヒ(スイス)まで15大会が開催された。リーグ終盤の8月にはシレジア(ポーランド・8月15~16日)、ローザンヌ(スイス・8月19~20日)、ブリュッセル(ベルギー・8月22日)、そして最終戦のチューリッヒ(8月27~28日)の4大会が行われた。男子では400mハードルのK.ワーホルム(29、ノルウェー)が46秒26の今季世界最高、ダイヤモンドリーグ新記録をマーク。やり投のJ.ヴェバー(31、ドイツ)も91m51と今季世界最高を投げ、絶好調だ。9月13日の東京2025世界陸上開幕を前に、世界トップ選手たちがどんなパフォーマンスを見せたのだろうか。
ワーホルムは東京世界陸上で自身の世界記録を破るのか?
超人BIG7の1人、ワーホルムがシレジア大会でマークした46秒28は、セカンド記録の世界最高でもあった。
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▼男子400mハードル46秒50未満全記録
1:45秒94 ワーホルム(ノルウェー)2021/8/3
2:46秒17 ベンジャミン(アメリカ)2021/8/3
3:46秒28 ワーホルム、2025/8/16
4:46秒29 ドス・サントス(ブラジル)2022/7/19
5:46秒39 ベンジャミン、2023/9/16
6:46秒46 ベンジャミン、2024/6/30
6:46秒46 ベンジャミン、2024/8/9
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史上唯一の45秒台をワーホルムが東京五輪で出したが、46秒50未満の回数はワーホルムがその1回に対し、R.ベンジャミン(28、米国)は4回マークしていた。直接対決でも2人は5勝5敗。至近4レースは全てベンジャミンが勝っている。
ワーホルムにとってプラス材料は、6月のダイヤモンドリーグ・オスロ大会の300mハードルで、0.55秒差をつけてベンジャミンに勝ったこと。そのレースが自信になっていると、本人も話していた。そこにシレジアの46秒28が加わった。「今日の結果は、東京に向けて素晴らしく良い材料になりました」とレース直後にコメントしている。
最終戦のチューリッヒでも46秒70で優勝。現地に行ったスタッフによれば、「東京世界陸上で世界新を出したい」とコメントしていたという。同じ国立競技場であるし、ベンジャミンに勝つには45秒台を出す必要がある、と考えているのではないか。史上2度目の45秒台が見られるのか。東京世界陸上の焦点の1つになる。
男子やり投でも今季世界最高が出た。最終戦のチューリッヒでヴェバーが91m51をマーク。世界歴代では14位だが、2位のN.チョプラ(27、インド)に6m50の大差をつけたことで歴代順位以上の評価ができる。チョプラは23年ブダペスト世界陸上金メダリストで、昨年のパリ五輪も銀メダルを獲得した選手。世界トップ選手が集まるダイヤモンドリーグで、この差は驚異的といえた。
100mはジャマイカ勢がライルズを連破
最終戦の男子100mはC.コールマン(29、アメリカ)が9秒97(向かい風0.4m)で優勝したが、コールマンは全米選手権5位で世界陸上に個人種目では出場しない。全米選手権やジャマイカ選手権の上位選手が最終戦に出場していなかったが、今季は最終戦が世界陸上の3週間前の開催だったため、当初から出場しないスケジュールを組み、練習に充てた選手が多かったのかもしれない。
その代わりではないが、シレジアとローザンヌには金メダル候補が多数出場した。シレジアの男子100mはジャマイカ選手権優勝者のK.トンプソン(24、ジャマイカ)が、9秒87(追い風0.3m)で優勝。超人BIG7の1人、前回世界陸上優勝のN.ライルズ(28、米国)に0.03秒差をつけた。ローザンヌではジャマイカ選手権2位のO.セビル(24、ジャマイカ)が9秒87(向かい風0.3m)で優勝。2位はシレジアに続きライルズで、0.15秒と差が大きくなった。
ライルズは今季ダイヤモンドリーグで、100mは3戦して一度も勝てていないが、200mは7月のモナコと最終戦のチューリッヒで優勝。チューリッヒは19秒74(向かい風0.6m)で、パリ五輪金メダリストのL.テボゴ(22、ボツワナ)に0.02秒差で競り勝った。
各選手のダイヤモンドリーグの戦績から、東京世界陸上の100mはジャマイカ勢が、U.ボルト以来の金メダリストを出す可能性が高くなってきた。200mに関してはライルズが、3連勝に近づいている。
しかしライルズも100mで勝てていないのは、シーズン序盤の故障が理由と思われる。シレジアの100mを走った後に「大きなステップになった。東京に向けて本当にワクワクしてきた」と手応えを口にした。ライルズの2大会連続2冠の可能性も残されている。
ダイヤモンドリーグ、イコール世界陸上ではない
東京世界陸上の本命と見られている選手たちが、8月のダイヤモンドリーグで敗れている。800mで今季ダイヤモンドリーグ5戦4勝だったE.ワニョニイ(21、ケニア)が、ローザンヌ大会で2位。ハンマー投はダイヤモンドリーグ種目ではないが(最終戦で実施されない)、ダイヤモンドリーグ以外の試合も含めて8戦6勝のE.カツバーグ(23、カナダ)がシレジア大会2位。2人とも昨年のパリ五輪金メダリストである。
砲丸投でダイヤモンドリーグ6戦3勝のJ.コヴァクス(36、米国)はシレジア大会2位、円盤投で今季ダイヤモンドリーグ4戦3勝のM.アレクナ(23、リトアニア)はブリュッセル大会2位。しかしワニョニイ、コヴァクス、アレクナの3人は、最終戦チューリッヒ大会ではしっかりと優勝した。
今季一番のターゲットは9月の東京世界陸上である。8月に少し休養的な期間や練習を追い込む期間を設け、トップコンディションに意識的に上げなかった選手もいるだろう。8月のダイヤモンドリーグの結果は、評価が難しい部分もある。
男子の日本選手は8月のダイヤモンドリーグで以下の戦績だった。
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◆シレジア大会(8月16日)
長谷川直人(新潟アルビレックスRC)男子走高跳9位・2m22
ディーン元気(ミズノ)男子やり投8位・67m91
◆ブリュッセル大会(8月22日)
真野友博(九電工)男子走高跳4位・2m18
◆チューリッヒ大会(8月28日)
村竹ラシッド(JAL)男子110mハードル8位・14秒39(追い風0.3m)
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長谷川は12日のブダペスト(ハンガリー)の大会で2m27で優勝し、シレジア大会出場が急きょ決まった。Road to Tokyo 2025の世界ランキングで、日本人3番手だが安全圏に入っていた。しかし瀬古優斗(FAAS)がAthlete Night Games in FUKUI(8月15日)で、東京世界陸上の参加標準記録の2m33を跳んだため、代表に入ることはできなかった。
同じ種目の真野は代表入りが確実な状況で遠征した。できれば標準記録を跳びたかったが、ダイヤモンドリーグの4位は、東京世界陸上に向けてモチベーションを上げられる結果だった。
ディーンと村竹の8位は、記録を見ても、何らかのアクシデントがあったと推測できた。村竹は帰国後に次のように説明をした。
「(スタートから1台目までの7歩のうち)最初の4歩が大きなストライドとパワーで行けたのですが、その分キレ味がなく、5、6、7歩が上手く刻めませんでした。1台目が近いと感じて、あんな(上方向に跳ぶ)踏み切りになってしまったんです。そこから無理矢理追い上げて、変にダメージが残ると世界陸上にも響きます。せっかくのファイナルでしたが、そのレースは捨てさせてもらって、無事ゴールすることを優先しました。一瞬の判断でしたが、世界選手権にかける方を取りました」
世界陸上本番前に技術的な課題を確認でき、やるべきことが明確になったとプラスにとらえ、最後の2~3週間に向かって行く。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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