全てのトラック種目が終わっても、国立競技場の大観衆は帰らなかった。たった1人の選手のために。
陸上の世界選手権東京大会(世界陸上)、男子棒高跳び決勝。アルマント・デュプランティス(スウェーデン)が、自身の世界記録を1センチ超える6メートル30に挑戦した。
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2回連続でバーにかすり、失敗。残るは1回。観客が自然と立ち上がる。手拍子が響き、スタジアムが一体となる。
助走から棒を地面へ突き刺し、空へ。バーに体は触れた。が、落ちなかった。
無観客だった4年前の東京オリンピック(五輪)で初めて金メダルをつかんだ25歳は言った。
「言葉が出ない。この結果は想像できなかった。みなさんの前で世界新記録を達成できて最高だ」
2017年に引退した男子100メートルの世界記録保持者、ウサイン・ボルトに次ぐ陸上界の「顔」だ。
世界新記録は通算14回目。愛称の「モンド」は「世界」の意味を持つ。今、大舞台で最も世界記録を期待できる。
かつて世界選手権で6連覇した「鳥人」セルゲイ・ブブカ(ウクライナ)の自己記録を15センチも上回った。理由は圧倒的な助走スピードにある。
昨秋、男子400メートル障害の世界録保持者と100メートル走で対決した。10秒37で勝った。
父でコーチも務めるグレッグさんは言う。「他の選手は11秒を切るぐらいだろう。棒高跳びはスピードと跳躍高に相関関係がある」
これで世界選手権3連覇。五輪も2度制した。この日、2位の選手とは30センチの差をつけた。「モンド時代」に終わる気配はない。
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