
【ニューヨーク=佐藤璃子】米国で法定通貨に価値が連動するステーブルコインへの「利息」を巡り、米銀と暗号資産(仮想通貨)交換企業との間で論争が起きている。交換所が銀行の預金金利を上回る報酬を示す中、預金流出を恐れる銀行側は「法の抜け穴」と批判し、実質的な利息を全面禁止するよう求めている。
ステーブルコインは「年利」4.1%
ステーブルコイン保有者への報酬は大手交換業のクラーケンなどが提供している。米仮想通貨交換大手のコインベース・グローバルでは、米サークル・インターネット・グループの発行するUSDコイン(USDC)の残高に対し年利4.1%の報酬を付与している。利用者増が目的とみられる。
1ドル分以上のUSDC保有で毎週報酬を受け取ることができ、保有上限は定められていない。銀行預金の利息と同じ仕組みで、米銀の平均的な普通預金の利回り(0.6%、米金融情報バンクレートの調査)と比べると圧倒的に高い。
コインベースは報酬の原資は自社のマーケティング予算と説明している。業界では「発行体であるサークルがコインの裏付け資産である米国債などから得た利子の一部をコインベースに支払い、それを原資に利子を出している」(米GMO-Z.comトラスト・カンパニーの最高経営責任者、中村健太郎氏)との臆測も出ている。

銀行側は反発を強めている。米銀のロビー団体、銀行政策研究所を含む複数団体は8月、7月に成立したステーブルコインの規制枠組みを整える「ジーニアス法」の抜け穴が原因だと指摘した。
ジーニアス法ではステーブルコインの発行体が保有者に利息を提供することを禁止しているが、発行体の関連会社や交換所などに対する明示的な禁止規定がない。
米国銀行協会(ABA)と各州の銀行協会も8月、上院議員に対し利息支払いの禁止を仮想通貨交換所などにも拡大するよう要請する書簡を送付した。
銀行側、最大6.6兆ドルの預金流出と主張
銀行側が懸念するのは預金流出だ。最大6.6兆ドルもの預金流出につながる恐れがあると主張し、預金減に伴う融資減少や金利上昇のリスクも警告した。
シティの調査部門シティ・グローバル・インサイツのフューチャー・オブ・ファイナンスで責任者を務めるロニット・ゴース氏は「特に預金に収入源を依存している中小規模の銀行が影響を受ける可能性が高い」と分析する。
一方、米ブロックチェーン協会と企業連合のクリプト・カウンシル・フォー・イノベーション(CCI)は8月、連邦議会上院の銀行委員会の議員らに向けて「(銀行側の主張は)競争力のない環境を作り、銀行を保護する代償として(仮想通貨)業界の成長や消費者の選択を奪うものだ」と主張した。
最大6.6兆ドルという預金流出の試算を疑問視する声もある。情報サイトのコインマーケットキャップによると、現在発行されているステーブルコインの時価総額は約3000億ドルにとどまる。米銀の銀行預金は約18.4兆ドルとなっており、仮に現時点で6.6兆ドルが流出となれば3分の1近くが影響を受けることになる。
米議会による「抜け穴」の対応が焦点
コインベースの最高政策責任者(CPO)であるファリヤール・シルザッド氏は自身のSNSで「もし顧客が本当に6兆ドルを銀行からステーブルコインに移すとしたら、それは消費者が銀行から受け取っている価値についてどう感じているかを物語っているのではないだろうか」と銀行の主張を批判した。
国際決済銀行(BIS)は6月、ステーブルコインについて「1コイン=1ドル」と等価での交換が完全には保証されていない点や不正利用されやすいといった課題を挙げ、通貨として機能するには「不十分だ」と評価する報告書を出した。
米OTCマーケッツ・グループのダン・ジン氏は「一朝一夕にして預金流出が起きるようなシナリオは起きないが、長期リスクとして銀行側は早めに手を打っておきたいのだろう」と指摘する。双方の主張を受けた今後の議会の対応に注目が集まっている。
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