
【ヒューストン=大平祐嗣】トランプ米政権は29日、米国で石炭火力発電を優遇するために連邦所有地1310万エーカー(約53平方キロメートル)を石炭採掘向けに開放すると発表した。採掘事業者は低い手数料で開発できる。人工知能(AI)の拡大などで電力需要増が見込まれるなか、米政権は国内で手ごろなエネルギーを確保する狙い。
米内務省のバーガム長官は同日、「マイン(採掘)、ベイビー、マイン」(掘って、掘って、掘りまくれ)と石炭開発をアピールした。トランプ米大統領が24年の選挙戦で石油ガス産業の支持を得るための演説で「ドリル、ベイビー、ドリル」と唱えたことになぞらえた。
内務省によるとモンタナ州、ワイオミング州、テネシー州などの連邦所有地で採掘が可能になる。7月に成立した減税・歳出法(OBBB)を受けて解禁された一部の連邦所有地と合わせて、今後数十年のエネルギー生産に貢献するという。
同日、エネルギー省も石炭火力発電所の再稼働などに6億2500万ドル(約930億円)を投じると発表した。脱炭素の流れや運営コスト増に直面して退場予定だった石炭火力の再稼働や改修に資金を投じて、電力需要を賄えるようにする。
石炭火力は二酸化炭素(CO2)の排出量が大きく、日本を含む先進国では脱炭素化を進めるために削減を進めている。米国でも20年前に石炭火力が電源別発電量の半分を占めたものの、足元では15%ほどに低減させていた。代わってCO2排出量が少なくコストの安いガス火力や再生可能エネルギーが伸びていた。

気候変動を軽視するトランプ政権の発足で潮目が変わった。トランプ氏は4月には石炭産業を復活させる大統領令に署名した。石炭のことを「ビューティフル・クリーン・コール(美しくきれいな石炭)」と呼び開発を増やすとした。
背景にはAI普及によるデータセンターでの電力需要増がある。米ローレンス・バークレー国立研究所は、データセンターの電力消費量は23年の176テラ(テラは1兆)ワット時から28年には3倍に増えると予測する。
電源を賄うために老朽化した石炭火力を退場させずに延命させながら電力の確保に動く。8月には閉鎖する計画だったミシガン州の石炭火力発電所に稼働の延長指示を出した。
従来は電力需要増を補う電源として風力と太陽光が期待されていた。トランプ政権は天候による変動電源は電気代を上昇させるとして、両発電手法を「世紀の詐欺」と攻撃している。トランプ政権は中長期的には原子力発電所の新設も目指している。
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