
富士通は3日、同社と米エヌビディアのチップを接続させた人工知能(AI)向け半導体を共同開発すると発表した。富士通の半導体は国の基幹スーパーコンピューター「富岳」など向けで使われてきた。エヌビディアの半導体と高速に接続して効率を上げ、省エネルギーの度合いも高める。データセンターやロボットなどの需要を開拓する。
エヌビディアは、AI用の計算処理を得意とする画像処理半導体(GPU)のトップ企業だ。富士通は、計算の司令塔となるCPU(中央演算処理装置)の開発を手掛ける。両社は2030年までに、お互いの半導体を同じ基板上でつなぐ。GPUやCPUなど複数のチップを1つのチップのように超高速で接続するエヌビディアの技術を活用する。

同日開いた記者説明会に登壇したエヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は、富士通のCPUとの接続で「新たなレベルの省エネ・高効率を実現できる」と強調した。
富士通の時田隆仁社長は「共通のビジョンを持ってAIで駆動する社会の実現に一歩踏み出した」と話した。共同開発する半導体は、AIデータセンターのほか、ロボットや車などを動かす「フィジカルAI」など向けに拡販する。

富士通はAI分野開拓に向け、新型CPUの開発を進める。半導体設計大手の英アームによる設計を基に、回路線幅が2ナノ(ナノは10億分の1)メートルのCPU「MONAKA(モナカ)」を開発中だ。
他社のCPUと比べて電力効率を2倍にする目標を掲げており、27年に実用化する予定だ。富士通は、他社技術を含めてシステムに組み上げて省エネを実現することに強みを持つ。
モナカは投入後も2年おきに最新機種を開発する予定で、29年にはさらに省エネなどの性能を上げた線幅1.4ナノメートルのCPUの提供を目指す。AI半導体でシェア7割を持つエヌビディアとの提携でCPUの販路を広げる。
エヌビディアは自社GPUの性能を十分に引き出せるように自社でCPUを開発、供給してきた。足元では用途に特化した半導体が必要になり、米クアルコムなど外部のCPUとも高速接続を可能にしている。9月には米インテルへの50億ドル(約7400億円)出資に合意した。富士通以外のCPUメーカーとの連携も広げる中、富士通にはスパコン開発などで培ってきた省エネ性能への期待もかけている。
海外テック企業は、日本企業の省エネ技術に期待する。
2日には、日立製作所と米オープンAIがAI向けデータセンターの電力関連技術などで提携した。同社は日立が持つ送配電設備や空調技術など省エネにつながる技術を用いて、データセンターの整備を進める。
NTTは次世代の光通信基盤「IOWN(アイオン)」の開発で米インテルや米マイクロソフト、米グーグルなどと協業する。アイオンは消費電力の無駄を減らしながら、高速で遅延しにくいデータ処理や通信を可能にする技術だ。

経済安保の観点から自国内のデータや施設を使ってAIを開発、運用する「ソブリン(主権)AI」への注目が高まっており、エヌビディアは、日本のシステム構築で実績がある富士通との提携を足がかりにしたいとの考えがある。
富士通とエヌビディアは8月、理化学研究所が30年に稼働を目指すスパコン「富岳」の後継機開発でも協業することを公表している。富岳後継機でCPUとGPUを組み合わせて、高い計算能力をより効率的に実現させるもくろみだ。
エヌビディアは富士通が持つ幅広い国内の顧客層にも着目している。製造業や金融といった様々な産業に基幹システムを提供しているほか、安全保障分野含めて政府にもシステムを納める。製品やシステムへの要求に厳しいこれらの顧客層を通じて、世界展開に弾みを付ける効果も狙う。
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