NTTは6日、開発を主導している次世代の光通信基盤「IOWN(アイオン)」の戦略について説明会を開いた。中核となる機器の生産体制に米半導体大手のブロードコムや新光電気工業など国内外の半導体企業が参画することを表明した。2026年度からコンピューターの電気配線を光配線に置き換えて省電力化する機器の販売を始める。IOWNの普及に向けた実用化への段階が一つ進む。

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「社会の消費電力を減らしていくことがIOWNの意義だ。その『本丸』となる製品になる」。NTTの島田明社長は新製品の位置付けをこう強調した。

NTTが来年度の発売を計画しているのは「光電融合デバイス」と呼ぶ電気信号と光信号の変換機器だ。サーバー内部の電子基板(ボード)に搭載し、他のボードとの間のデータ伝送に減衰の少ない光信号を使えるようにする。

NTTが開発を主導する「光電融合デバイス」(6日、東京都千代田区)

機器はNTT子会社のNTTイノベーティブデバイス(横浜市)とブロードコムが供給する回路部品を、新光電工のパッケージ基板に実装してつくる。

説明会では、NTTの星野理彰副社長が台湾の通信機器大手アクトン・テクノロジーが光電融合デバイスを組み込んだネットワーク機器を開発・販売する方針も示した。省電力や発熱が低いことを売りに、クラウドの大手事業者やサーバーのメーカーなどに採用を働き掛ける。

古河電気も今後参画か

NTTはさらに28年をめどに、ボードに組み込んだ半導体や部品を直接光でつなぐ次世代品を投入する計画だ。この製品の開発や量産体制の構築には、古河電気工業も協力するもようだ。

NTTは1960年代から取り組む光技術の研究開発の集大成として、2019年にIOWN構想を打ち出した。23年にはデータを光信号のまま伝送する通信サービスを始めた。光信号と電気信号を併用する従来の光回線に比べて高速でデータ伝送が遅延しにくい点を強みにする。

通信設備から半導体に――。光電融合デバイスは光技術をコンピューター内部の処理に応用するものだ。通信インフラとしての側面が強かった従来のIOWNのイメージを塗り替え、活用範囲が半導体や電子部品の領域まで広がる契機となる。消費電力をIOWNなしと比べて100分の1にする目標を掲げる32年の「IOWN4.0」実現に一歩近づいた。

AI開発競争も支える

省電力を急ぐ背景には人工知能(AI)の急速な普及がある。膨大なデータ処理を担うAI向けのデータセンターは電力消費も多い。

国際エネルギー機関(IEA)は、AI普及に伴い、30年にはデータセンターの電力需要が現在に比べて2倍以上の945テラ(テラは1兆)ワット時に膨らむと予測する。これは日本の電力総消費量に匹敵する規模になるという。電力問題は日本がAI競争に勝ち抜くために避けて通れない大きな課題だ。

「光電融合」は切り札の先端技術として世界で期待が高まる。これまで日本勢が先行し強みを蓄積してきたが、足元ではエヌビディアなど米国勢が競争に名乗りを上げる。様々な科学分野で世界の覇権を狙う中国勢も注力分野と位置付け始めた。

NTTは対応する機器をいち早く商品化して、実装も含めた技術開発で世界をリードする狙いだ。だがIOWNは「全く新しい市場だ」と島田社長はいう。今回、ブロードコムをはじめ半導体などのメーカーとの協力体制も明らかになった。IOWN経済圏の構築につなげられるか。第2幕が始まった。

(高槻芳)

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BUSINESS DAILY by NIKKEI

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