
第12回日経・FT感染症会議(主催・日本経済新聞社、共催・英フィナンシャル・タイムズ)は7日午後、既存の抗生物質が効かない薬剤耐性(AMR)感染症の対策について専門家らが議論した。新薬開発に必要な人材が不足していることなど課題が多く、研究開発を強化していく必要があることを確認した。
日本医療政策機構の乗竹亮治代表理事はAMR対策が喫緊の課題だとした上で「イノベーションがクライシス(危機)に追いついていない」との認識を示した。日本では塩野義製薬が治療薬開発に取り組んでおり「AMRは日本がリーダーシップを取っている珍しい領域でもある」と述べた。
塩野義製薬の沢田拓子副会長は患者数を予測できないことなどから市場の魅力が低く、成長を見通せないため大手企業を中心にAMR分野から撤退している現状を説明。「抗菌薬に関わる人材も(新たに)入ってこず、研究開発力は低下して危機的な状況だ」と指摘し、産官学連携の重要性を訴えた。

AMRの新規治療薬を開発する非営利組織GARDPのラフル・ドイヴェーディー氏も「ベンチャーキャピタル(VC)は稼げる会社に資金を投入するため、抗菌薬開発のスタートアップは倒産してしまうケースも多い」と、対策が進まない背景に開発資金の不足があると指摘した。
日米欧の製薬大手が出資する「AMR アクションファンド」のマーチン・ハイデッカー最高投資責任者(CIO)は「リスクをとることも重要で、投資やイノベーションが今後増えることを期待している」と話した。
厚生労働省によると、AMRは何も対策を講じなければ2050年に世界で1000万人が死亡するという。同省の鷲見学健康・生活衛生局感染症対策部長は「ひそかに広がる『サイレントパンデミック』とも言われる課題だ」と強調した。「企業の力を借りながら対策をしっかり進めていく」とした上で、「国民の理解を得ながら必要な予算も確保していく」と話した。
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