「金持ち風」を吹かすのが常套手段

「『自分は客だ』、『俺はお前より上だ』という偉そうな態度がありありだった。本当に腹立たしい」

都内でコンサルティング会社を経営する30代の在日中国人男性、王さん(仮名)は、こう怒りをぶちまけた。怒りを向けた先は、日本への移住を希望して中国からやってきた男性、陳さん(同)だ。知人からの紹介で、日本のビジネスについて陳さんの相談に乗ることになった王さんだったが、来日前からその横柄さに憤りを募らせたという。

陳さんはまず、成田空港へ迎えに来るように要求し、商談場所として都内の高級ホテルのラウンジをわざわざ指定してきた。王さんが多忙を理由に出迎えを断ると、陳さんは機嫌を損ねた。商談の場となったホテルについて「設備は古いし地味だ」などとけなし、挙句の果てには日本全般に対して不満を語り始めたという。

王さんは、「彼は中国の典型的な金持ちタイプだった。『金持ち風』を吹かせ、『金を出す人間の言うことを聞け』と強硬に出るのが中国流のビジネスのやり方だが、私だけでなく日本までバカにされたような気持ちになって、とても悔しかった」と唇をかんだ。

コロナ禍で「脱出」が加速

筆者は長年にわたって中国社会、在日中国人社会をウォッチしてきた。以前に拙稿で紹介したように、日本に住む中国人の多くは1978年の中国の改革・開放後に来日した世代で、留学や出稼ぎなどが目的だった。80年代~2000年代前半は、日中間に大きな経済格差があった時代で、彼らは経済的な面で苦労しつつ、日本社会に溶け込もうと努力してきた世代だ。日本で勉強したり働いたりするために日本語を習得し、日本社会のルールを守って暮らしてきた人々が多い。

10年に日中の国内総生産(GDP)が逆転するなど、中国が経済発展を遂げると状況が変わった。「爆買い」ブームの15年頃を転換点として、経済力のある中国人が次々と日本へ移住してくるようになった。この動きはコロナ禍で拍車がかかり、今や留学や出稼ぎではなく、「中国脱出」を目的とする移住が主流となった。

彼らのように日本での会社経営などビジネスを目的に、経営・管理ビザを取得して近年移住してくる中国人を、筆者は「ニューカマー」と定義している。同ビザでやってくる中国人は24年6月には約2万人となり、15年と比較して3倍近くになった。ただ、在日中国人全体で見ると数の上ではまだ少数派であり、彼らが日本で企業活動をする際に頼るのは、10年以上日本に居住して、日本を熟知する人たちだ。

ところが、本来なら手を差し伸べるべき同胞ながら、日本社会に親しんだ在来の人々にとっては、王さんが指摘するように「どこに行っても中国流を押し通す」ニューカマーたちの傍若無人さが、目に余ることがあるようだ。冒頭で紹介した王さんのケースのように、在日中国人社会で新旧間のあつれきが生じている。

「中国流」を押し通す

今年6月、都内にあるマンションの中国人オーナーが家賃を2.5倍に突然値上げし、住民を追い出すためにエレベーターを停止させるといったトラブルがメディアに報じられた。このオーナーがニューカマーかどうかは不明だが、報道を注視していた在日歴が20年以上になる中国人男性、張さん(仮名)は、これまでにはなかったような同胞の振る舞いに眉をひそめた。

「最近日本に移住してくる人の中には、経済的に低迷する日本に対して『上から目線』の人が少なくない」。こう語る張さんは、報道されたトラブルに、ニューカマーによるとされる高級タワーマンション買い占めと相通じるものがあると感じている。自身の居住目的ではなく、投資のために高額不動産を買いあさるのは、かつて中国で過熱した不動産投資のやり方だ。不動産価格の上昇が当たり前だった時期に財産を築いた手法を、日本でも実践する。不動産は「住むところ」ではなく投機の対象なのだ。さらに取得した不動産を使って、利益が大きい民泊事業にも手を広げている。

張さんのように日本に長年住む中国人の中にも、将来的な資産形成のため複数の不動産を保有する人はいるが、価格つり上げが狙いではない。張さんは「私たちは日本人と同じように真面目に働き、ようやく購入できた」と話す。

ただ、メディアなどで「中国人によるマンション買い占めが起きている」などとクローズアップされると、世代によって在日中国人社会の様相が異なることを知らない多くの日本人からは、在日中国人全体の動きのように捉えられかねない。張さんはニューカマーの全てがそういった人たちではないことを強調しつつも、「彼らと同一視されるのは残念だ。一方で同胞としては複雑な気持ちもある」と吐露する。

日本に溶け込む意思なく

しかし、旧世代から問題視される一部のニューカマーたちは、オールドカマーが抱く心境には無頓着であり、そもそも日本に対して、あまり深い考えや認識を持っていない。日本の学校や企業に自ら飛び込んで、日本社会を身体で理解してきた旧世代とは異なり、日本社会に溶け込む必要性をそれほど感じていないのだ。

日本における子育て、教育方針を見ても、新旧世代の違いは明らかだ。オールドカマーはそれぞれが居住する地元の公立学校に子どもを通わせ、日本社会になじませたうえで無理のない形で中学や高校、大学へ進学させてきた。一方、ニューカマーは日本移住前に中国のSNSで日本の教育環境について情報収集し、東京都文京区など教育レベルが高いとされるエリアに移住。計画的に子どもをエリート進学校、有名大学へのレールに乗せる。彼らは中国人による中国発の情報だけを基に、「いいとこ取り」をしようとする傾向が顕著だ。

「仕事で中国と日本を頻繁に行き来して忙しく、そんなこと(日本に溶け込むこと)は考えたこともない。日本語はよく分からないし、日本人の知り合いは1人もいない」

こう打ち明けるのは日本での在留資格を持つニューカマーの男性、黄さん(仮名)だ。残念ながら彼の言葉からは、「日本社会の一員となり、この国に貢献していく」といった意思は感じられない。ニューカマーの多くは、ビジネスや保身のために日本移住を選んでいるので、当然の思考なのかもしれない。

翻って中国本土からの移住者が多い香港。ここでは裕福な新移住者は「新香港人」と呼ばれている。旧来の香港人よりも環境が良い土地に住み、子どもを名門校に通わせる。一部は旧来の人々を見下すような態度を取り、ひんしゅくを買っている。

香港と日本では状況が大きく異なるので単純比較はできないが、世界中どこへ行っても中国式のやり方を押し通そうとする点では似ている。筆者は、コツコツと真面目に働き、日本社会で着実に地歩を築いてきた大多数の在日中国人の姿を見てきただけに、彼らの社会の中でじわじわ起き始めている不協和音が、これから日本にどのような影響をもたらすのか、一抹の不安を抱いている。

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