
2026年1月から国立競技場(東京・新宿)の呼称が「MUFG スタジアム」(略称「MUFG 国立」)になる。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は国立競技場の命名権を取得し、最上位の運営パートナーとなった。競技場の価値向上と合わせ、新たなビジネスアイデアの創出の地としても活用する考えだ。
命名権取得は1年弱、検討を重ねた末の決断だった。契約期間は5年間で契約額は非公開だが、総額約100億円とみられる巨額投資だ。過去の他の事例と比べても桁違いの契約額のため社内で賛否両論あったようだ。
命名権の取得には外資系企業も興味を示していたとみられる。国立競技場という日本を代表する施設の命名権を、日本の企業が取るべきだという意見もあったようだ。
「確かに高いが、迷いはなかった」。ある三菱UFJの幹部はこう語る。スポーツや文化、地域社会のイベントなどの起点となる競技場という「場」を支えることで「多様な層にじわりとMUFGのブランドが浸透していくのが良い」という。
経営企画部ブランド戦略グループの飾森亜樹子部長は「金融機関として社会課題解決を体現する『器』を求めていた」と話す。
都心の一等地にあり、定期的に数万人が集まる国立競技場の運営パートナーとなることで、特定のスポーツチームへの支援とは異なる効果が見込める。
例えば、顔認証による決済といった金融サービスの実証実験を手掛けられる。競技場に集まるフードトラックや売店を通じてフードロスを解消するビジネスを生み出すアイデアもあるという。
スポーツやコンサートに限らず、スタートアップ企業や伝統文化発信の基地としても活用したい考えだ。高瀬英明専務は「子供向けのスポーツ教室に金融経済教育のプログラムを組み合わせるといった様々な活動ができる」と話す。
金融機関が社会課題の解決に取り組む重要性は国内外で高まっている。人口減少や地域経済の縮小、気候変動といった社会課題が深刻化すれば、企業や個人と取引する金融機関自身の基盤も揺るぎかねないためだ。課題解決に取り組むことで金融以外の新たなビジネスを創出する機会にもつながる。
ドイツ銀行もサッカードイツ1部のアイントラハト・フランクフルトとパートナー契約を結び、ホームスタジアムを「ドイチェ・バンク・パルク」と名付けて地域貢献に取り組んでいる。国内でも、埼玉りそな銀行が24年5月に創業支援などを担う地域振興のための複合施設「りそな コエドテラス」(埼玉県川越市)をオープンした。
今後社内外からアイデアを募り、MUFGスタジアムの活用に向けた戦略を立案する。8月に経営企画部内に設置したスポーツ・スタジアムビジネス共創室が司令塔になり、26年度からの本格稼働を目指す。
日本のプロスポーツ市場は約8000億円とされ、GDP(国内総生産)を加味しても米国の約10兆円に比べて小さく、成長余地がある。三菱UFJが「国立モデル」を確立できれば、スポーツ産業発展や地域の価値創出への横展開も見えてくる。
(関口由紀)
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