instax "チェキ"新製品発表会に登壇した俳優の広瀬すずさん㊧(21日、渋谷区)

富士フイルムは21日、インスタントカメラ「チェキ」で自分自身を撮影する「自撮り」用レンズも搭載する新機種を11月7日に発売すると発表した。撮ったその場で現像・印刷できるインスタントカメラは競合がほぼ不在で、同社の「ドル箱」となっている。付加価値を高めて顧客層を広げ、さらなる収益の獲得を目指す。

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同日、都内で開いた説明会には俳優の広瀬すずさんなどが登壇し、旅行先のスペインで自撮りをするというシチュエーションでデモンストレーションを披露した。

製品名は「インスタックスミニ リプレイプラス」。新製品の特徴は、スマートフォンで広がった自撮り文化への対応だ。これまでチェキのカメラはデジカメのように本体外側に1つだけ搭載されていた。新製品には内側にもレンズを搭載し、スマホ同様にモニターを見ながら自撮りができる。

チェキの新製品には自撮り用カメラを搭載した(21日、渋谷区)

撮影した風景と自撮りした写真を1枚の写真として合成して印刷したり、スライドショー形式での短い動画を作成したりできる。最大10秒間音声を録音し、音声データをQRコードとして写真と一緒にプリントできる「サウンド機能」も備える。

富士フイルムでイメージング事業を統括する山元正人取締役副社長は「スマホが当たり前のツールになり、写真が身近になっている。アナログとデジタルを融合させて体験価値をつくる」と話した。

チェキは1998年に発売され、今年4月には累計販売台数が1億台を突破した。年間売上高は1500億円を超え、うち9割が海外だ。

インスタントカメラはアナログな技術だが、参入障壁は高い。1枚に見えるチェキのフィルムは18の層で構成され、高い生産技術が必要だ。カメラからフィルムが出てくるとき、現像液の袋がやぶれてフィルム全体に広がる。その際に現像液を均一に塗る技術も求められる。

祖業の写真フィルム事業がデジタル化で縮小しても、撤退しなかったことでキヤノンやソニーなどの他のカメラメーカーにはない「ドル箱」に育った。2026年3月期はチェキやデジカメなどの写真関連の営業利益は1270億円で、調整前の連結営業利益の3割強を稼ぎ出す。

独り勝ちの市場を築き上げ、次は深掘りに動く。

新製品の想定価格は2万8600円で、高級モデルの位置づけだ。チェキは公式サイトで1万2100円で販売する基本モデルのほか、レトロな外観のモデルや液晶モニターを付けたモデルなど品ぞろえを増やしてきた。

2月にはシリーズで最高額となる同5万5000円の「インスタックスワイド エヴォ」を発売するなど、足元で高級機種のラインアップを充実させている。チェキのユーザーは10〜20代の女性が多く、写真や表現にこだわりのある20代後半〜30代に利用者の裾野を広げようとしている。

グループでは次世代のけん引役として位置づけるバイオ医薬品の開発・製造受託(CDMO)のように数千億円規模の持続的な投資が必要な事業をかかえる。チェキのポテンシャルを最大限まで引き出し、キャッシュを生み出し続けられるかは、会社全体の成長をも左右する。

(山田航平)

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