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かつて「一億総中流」と称された日本社会は、バブル崩壊以降の経済停滞や非正規雇用の拡大を背景に格差社会へと移行した。1993年に550万円だった世帯所得(年額)の中央値は、長期的に減少傾向が続き、2023年には410万円にまで落ち込んだ。

その一方で、数値が1に近いほど格差が大きいことを示すジニ係数は、当初所得ベースで1981年以降上昇傾向を示し、2021年には0.570と14年に次ぐ過去最高水準に達した。再分配所得ベースのジニ係数は、1999年以降ほぼ横ばいで推移しており、税や社会保障を通じた再分配機能が格差拡大を一定程度抑制していると言えるが、格差の固定化が深刻だ。

過去20年間、非正規雇用者の賃金は正規雇用者の6〜7割程度で推移しており、雇用形態間の給与格差はほとんど縮まっていない。

所得は二極化、格差固定へ

今や雇用者の3人に1人となった非正規雇用の増加トレンドに伴って、所得分布の二極化が進んだ。この二極化は、所得の中央値の半分にあたる貧困線を下回る世帯員の割合(相対的貧困率)にも影響を及ぼしている。日本の貧困率は15.4%と、主要7カ国(G7)の中では米国に次ぐ高い水準だ。特にひとり親世帯の貧困率は44.5%と突出しており、母子世帯では非正規雇用者が多く、安定した収入を得ることが難しい状況が続いている。正規・非正規間の所得格差は、単に貧富の差を広げるだけでなく、教育機会や就業機会の格差を通じて、世代を超えた経済格差の再生産も助長する構造となっている。

こうした社会構造の変化の中で、新たな階級の存在感が増している。早稲田大学人間科学学術院の橋本健二教授は、現代日本社会を5つの階級に分類。パート主婦以外の非正規労働者を平均年収が最下層の「アンダークラス」と名付けた。アンダークラスは890万人に上り、就業人口の13.9%。7人に1人を占める一大勢力となっている。

橋本教授らが東京、名古屋、京阪神圏に住む20〜69歳を調査対象に実施した「2022年三大都市圏調査」によると、アンダークラスの平均年収は216万円で、正規労働者階級の約4割にとどまる。男性の未婚率は74.5%と高く、子育てや家庭形成を負担する能力が十分に確保されていない現状が浮き彫りになっている。

「アンダークラスの賃金には次世代の労働力を再生産する費用が含まれていないため、このままだと資本主義の存続が揺らぎかねない」。橋本教授はこう警鐘を鳴らす。アンダークラスは未婚率が高いため、社会の人口再生産に寄与できない。こうした空白は、外国人労働者や他の階級によって補塡されており、現代日本の労働市場は、アンダークラスの存在を前提とした補完関係の上に成り立っていると言える。政府は最低賃金1500円を目指す方針を掲げているが、「低賃金の非正規に依存して収益を確保する企業は、存続が難しくなるだろう」と橋本教授は指摘する。

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企業活動に目を向けると、企業が蓄積する内部留保は増え続けている。24年度末時点の内部留保は約638兆円と、13年連続で過去最高を更新した。配当金は1960年度比で約132倍に伸び、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の適用が始まった2015年以降、企業の株主還元は急拡大した。

企業の分配、人件費を軽視

一方、利益などのうち人件費に回る割合を示す労働分配率は24年度に64.2%と、ここ数年は下落傾向だ。企業の分配は人件費よりも株主に傾斜し、従業員給与の伸びは配当金に比べると限定的となっている。

こうした分配構造の変化や非正規雇用の拡大は、世代間格差の拡大も助長。2014年から24年の年齢別賃金変化率を見ると、40代前半から50代半ばの就職氷河期世代の賃金はマイナスとなった。それに対し、20〜24歳の若年世代では10年間で14.8%上昇。同じ労働市場においても世代による経済的恩恵の差が顕在化している。

固定化する格差がある一方で、男女間や地域間の格差には近年縮小傾向も見られる。男女格差は、一般労働者(フルタイム)の男性を100とした場合、女性は75.8と1976年以降で最も小さい差に改善した。地域格差も、2010年から14年にかけて東京都と全国の1人あたり県民所得の差が拡大していたが、新型コロナウイルス禍で東京圏への人口流入にブレーキがかかると、所得格差の縮小が進んだ。地方創生関連政策や働き方の多様化は、都市部と地方の所得格差の是正に寄与している側面がある。

(日経ビジネス 藤本莉早)

[日経ビジネス電子版 2025年9月19日の記事を再構成]

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