試乗した小型トラック「エルフミオ」(画像は一部加工、9月、神奈川県平塚市)

いすゞ自動車は小型トラック「エルフミオ」の四輪駆動モデルを発売した。2017年以降に取得した普通免許でも運転できる小型トラックだ。小回りがしやすく、うたい文句は「誰でも乗れるトラック」。文字通り簡単に乗れるのか。20年に普通免許を取得した記者が、トラックの運転にチャレンジした。

エルフミオは最大積載量が1〜1.3トンの小型トラックで、全長は約4.7メートルとトヨタ自動車の商用バン「ハイエース」とほぼ同じサイズ。トラックを運転するのは初めてで、ハイエースの大きさの車すら乗ったことがない。

「小型といえど車体は大きい。上下に揺れて、乗りづらいのでは」。記者はトラックには良い印象を持っていなかった。

いすゞの藤沢工場(神奈川県藤沢市)内のテストコースで試乗した。

乗用車に似た運転のしやすさ

ハンドルは乗用車より一回り大きい

運転席に座ると、視線の高さに違和感を覚えた。車高が高い多目的スポーツ車(SUV)よりも大幅に高い。ハンドルは乗用車よりも一回り大きい。最初は普段の運転通りに両端を持つと、操作に手間取った。

だが、担当者からハンドルの下側を持つと運転しやすいとアドバイスされると、すぐに慣れた。トラックにあったハンドルの持ち方があった。少しハンドルを動かすだけで、楽に曲がれるようになった。

運転席の位置も乗用車と異なり、前輪のタイヤの真上から前にある。停止線の場所や前方との距離感、左折時の巻き込みの注意には細心の注意を払う必要がある。慣れると乗用車より小回りがきくことに気がついた。

それ以外は運転中に気になる点はなかった。オートマチック(AT)車で方向指示器やペダルの位置も乗用車と変わらない。運転時は普段よりも小さなハンドルさばきで車体を操ることができ、10分ほど運転すると感覚をつかむことができた。

懸念していた振動はほとんどなく、車内では小声でも会話ができる。最大積載量の積み荷を載せて運転したが、ハンドル操作に重さは感じなかった。トラック特有の後ろの重さを意識する場面も少なく、安定感のある走りだった。

最大積載量は1トン以上

なぜ乗用車しか運転したことがない私でも簡単にマスターできたのか。エルフミオの開発を担当した増子智一チーフエンジニアは「乗用車から乗り換えても、恐怖感を感じないように意識した」と話す。

大きいと感じたハンドルは実は普通のトラックより小さいという。乗用車とトラックの中間程度のサイズで、小柄な女性でも楽な体勢で長時間運転できるようにした。ハンドル操作の感覚やペダル、ミラー類のレイアウトは乗用車に近づけた。

エンジン音はディーゼルエンジン特有のカラカラと鳴る音をできるだけなくし、路面から伝わる走行音も最小限に抑えた。風切り音を少なくする空力設計や、遮音材を用いるなどして「トラックらしくない」静粛性を実現した。

17年の新免許基準に対応

ボタンで四輪駆動に切り替わる

いすゞはエルフミオを24年に発売した。開発の背景には17年の免許制度の見直しがある。

普通免許で運転できる車は車両の総重量などで決められている。17年までは総重量が5トン未満の車を運転できたが、制度の見直しにより17年3月以降に取得した普通免許では総重量が3.5トン未満の車しか運転できなくなった。

従来のトラックを使う場合、物流会社は制度見直し以降の免許取得者に準中型以上の免許を取得させる必要がある。運転手を確保するハードルが年々高くなっている。

いすゞは人手不足解消の切り札としてエルフミオを投入した。年間の目標販売台数は現状は5000台にとどまっている。

増子氏は「新しいお客様をターゲットにして成長していきたい」と意気込む。7月に発売した四輪駆動モデルは降雪地域での利用拡大を見込む。

人手不足を解消するためには、新たな人材を活用していくことが重要となる。いすゞは自動車メーカーとしてトラック運転に対する敷居を下げた。「誰でも乗れるトラック」の認知度をどこまで浸透できるかが問われる。

(田中颯太)

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