閣議後記者会見に臨む鈴木憲和農相=東京都千代田区の農林水産省で2025年10月28日午前8時33分、中津川甫撮影

 高市早苗政権で初入閣した鈴木憲和農相の発言が揺れている。22日の就任記者会見で米価高騰への対応や今後の政府備蓄米の放出を巡り、「国が(コメの)価格にコミット(関与)すべきではない」と介入を否定。その後、「誤解があった」として釈明した。備蓄米を放出すべきだった時期の発言なども、微妙に変わっているように聞こえる。

 鈴木氏は大臣就任会見で「農林水産省が価格にコミットすることは、政府の立場もあってすべきではない」と強調。「価格はマーケットの中で決まるべきもの」と述べ、米価高騰を理由にした備蓄米の放出を行わないとの考え方を示していた。

 その後鈴木氏は、関係者から「『誤解を受けている』との指摘があった」として、24日にあった自民党の農業政策の会合で「価格にコミットしない」との発言について、「正確に私の真意を申し上げると、私としては需給の安定を図ることによって、価格の安定を(間接的に)図っていくことにコミットしている」と述べ、軌道修正した。

 発言の冒頭では「いつも(農相就任前)はそちら側にいたので、好き勝手に強気なことを申し上げていたが、今度は言われる立場になった」と話し、笑いも誘っていた。

 さらに、昨年来の米価高騰とコメ不足問題での対応を巡り、政府備蓄米を放出すべきだった時期についての発言も、わずかなズレがある。鈴木氏は昨年11月まで1年ほど副農相を務め、対応への責任を問う声も出ている。

 鈴木氏は23日のテレビ各社のインタビューで「備蓄米を放出するべきだったのは、去年のだいたい春先から夏にかけて。この時期が最もスーパーの棚を見ても(コメが)並んでなかったりしていた。その時期にちゃんと量の不足に対応するべきだった」と発言。しかし27日の民放番組に出演した際は「昨年の夏の段階で出すべきだった」と述べ、3月ごろを指す「春先」の言葉が消えた。

 発言の整合性について、28日の閣議後会見で問われると鈴木氏は、「しっかりと私の話をもうちょっとよく聞いていただけると大変ありがたい。私の発言は全くブレていない」と反論。「春先から『足りないのではないか』などという意見やシグナルをいただくようになった」と説明した。

 その上で「現実にスーパーマーケットの棚にコメがなくなったのは夏だ。私の『(量が)足りないなら出す』という備蓄の考え方からすれば、夏の時点でスーパーの棚にコメが十分並ぶ状況を作るべきだった」と述べた。

 また米価高騰の一因とされるコメの流通の複雑さについても、発言をトーンダウンさせている。

 鈴木氏は23日の新聞社などのインタビューで「『流通が複雑だ』っていうふうに皆さんおっしゃるが、本当にそうか。これよく見た方がいい」と疑問を投げかけた。しかし28日の閣議後会見では「私たち(農水省)が全て把握できるわけでもないというのも事実」としつつも、「複雑かどうかについてはさまざまなご意見がある」と述べるにとどめた。

 こうした微妙な発言の変化について、鈴木氏は「よく聞いてほしい」などと反論しているが、誤解を招きかねない発信は農政の信頼を揺るがす可能性もある。【中津川甫、渡辺暢】

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