
若手だけでなく、中堅・幹部層でも、社員間の「差」が明確に見える仕組みを導入して、組織を活性化しようとする企業も目立ってきた。
そんな動きの一つは、職務の定義と必要なスキルを明確にして適合する人を充てるジョブ型人事制度などの広がりだ。ジョブ型では、職務に必要な専門性や経験などが定義され、それに見合う人でなければ職位に就けないか、外れることになる。企業が成長し、職務の役割が大きくなれば、専門性や遂行力などさらに能力の高い人が必要になり、逆に業績悪化や事業の見直しなどがあれば、職務自体がなくなるか、役割が小さくなることもある。となれば、昇格の一方で降格も珍しくなくなる。

パナソニックホールディングス傘下のシステム事業会社、パナソニックコネクトは、22年の会社発足時からジョブ型を採用してきた。「すぐに人事を大きく変えたわけではなかったが、今はポジションベースでの異動を徹底している」と新家伸浩・執行役員は言う。24年度には、社員のうち10.4%が昇格したが、降格も1.3%あった。
同社の人事制度は、ポストとそれに結びついた10の等級があり、「ポストが変われば等級も上下する」(新家執行役員)。従来の日本型人事制度では、例えば部下を抱える営業課長から、全く異なる職種の部下なし課長になっても等級は変わらず、報酬も大きく変化しないことが珍しくない。パナソニックコネクトの場合は、等級にひも付いた報酬レンジの影響で、賃金が下がらないケースも一部にあるが、等級下落など処遇の「格差」は見える形になる。
「今は事業ポートフォリオの入れ替えなどが起きる。その伸びる分野に能力のある人をいかに配置するかが企業の強さを分ける」と新家執行役員は言う。競争力を上げるために完全ジョブ型にしたというわけだ。ただし、同様に大事にするのは「社員がどの分野で、どう生きていくかといったキャリアを主体的に考えるようになること」(新家執行役員)。その主体性が、個の力を高め、結局は企業の生産性も引き上げると考えるからだ。

こうした動きの先はどうなるのか。メルカリは21年春に人事制度を改定した際に、企業として大事にする3つのバリュー(行動指針、現在は4項目)のうち、「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」の項目で職務定義を明確にし、報酬が職種によって変わるジョブ型的要素を強めた。
「世界にいる当社の約2000人の社員は、エンジニアが半数で『この職務で自身は何をしたいか』『そのためにスキルをどう高めるか』という考え方が強い」(人事部門の早川アンジー亜貴ディレクター)。定年までいることを重視するというより、企業の価値を高めるために自分のやりたい仕事に集中することが何より大事といった雰囲気になっているとも言う。ジョブ型がうまく進めば、プロ志向重視の企業文化が生まれやすくなるのかもしれない。
世界の優秀人材を特別育成
幹部育成も「格差」をいとわぬ時代になってきた。東京海上ホールディングス(HD)は23年4月、世界のグループ企業の幹部を育てるためのTLI(Tokio Marine Group Leadership Institute)という取り組みをスタートさせた。


世界のグループ企業から役員と部長、それぞれのレベルで将来のリーダーと期待する人材を集め、独自の教育をしていくものだ。25年度に、部長、役員クラスそれぞれ15〜25人を集めるなど、毎年数十人を選抜。年に数回、重要な経営戦略などを学ぶほか、世界のグループ企業社員と一緒に演劇をしてコミュニケーションや自己表現の訓練をするなど、リーダーとしての能力養成のための多様な研修を実施している。25年はスイスのビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)で開催した。
さらに参加者それぞれが世界のグループ企業幹部をメンターにして1対1で、「自身のキャリアをどう伸ばすか」「今、成長のために何をすべきか」といった対話を毎月繰り返す。教育後は、世界のグループ企業の経営幹部として実践もすることにしているという。
大きな特徴は、取り組みの中で、参加者同士、あるいは世界の幹部層と次世代リーダーとの間に強い関係をつくろうとしていることだ。教育だけではなく、人脈も強固にし、リーダーとしての視野を広げるとともに、将来経営を担う立場に就いた際の計画実行力を高めようとしているかのようだ。既に参加者は計261人に達している。
一方で東京海上は、TLIの取り組みを社内に公開もしている。従来の日本企業は、こうした特別教育を表に出すと、他の社員のやる気を損なうという「平等第一主義」だったが、それも大きく変えた。「透明性高く実施する方がフェアだし、他の社員が目指す気にもなる」(林佑樹・東京海上ホールディングス人事部グループ人材戦略室セクションチーフ)。「格差」は隠す時代ではなくなった。
(経済ジャーナリスト 田村賢司)
[日経ビジネス電子版 2025年9月25日の記事を再構成]
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