インド海事産業のイベントには500社以上の関連企業が出展した(29日、ムンバイ)

インドの造船業が海外需要の開拓に乗り出している。最大手で国有のコーチン造船所がフランスの海運大手からコンテナ船を初めて受注し、商船三井も発注を検討する。米中対立で中国に船舶を発注するリスクが高まっている。インドの造船業は中国の代替需要を取り込み成長を目指す。

「21世紀においてインドの海事産業は驚異的なスピードとエネルギーで発展している」。インドのモディ首相は29日、ムンバイで開催中の国際海事イベントで演説し、造船業の支援や港湾整備に積極的に取り組むと強調した。

27日に開幕した同イベントには85カ国超から政府や業界関係者らが集まり、世界の海運システム強化などをテーマに意見を交わした。500社以上が会場に出展した。

海事産業のイベントでは世界から集まった経営者らが意見を交わした(29日、ムンバイ)

政府はインドを世界の海運ハブに変革する野心を掲げる。国の独立から100年を迎える2047年までに世界の貨物量に占めるインド船を現在の1%程度から20%まで高める目標だ。9月には造船業や海洋インフラに投資する海洋開発基金の設置など、総額6973億ルピー(約1兆2000億円)の包括的な支援策を発表した。

同国の造船業の要となるのがコーチンだ。1972年設立で、三菱重工業の支援を受けて82年に最初の造船所を完成させた。過去5年間に小型商船や艦艇など計70隻の船を納入し、国内需要を取り込み成長を続けてきた。2025年3月期決算は売上高が前の期比2割以上増えて約500億ルピーとなり、最終増益も確保した。

さらなる成長に向け海外の需要を狙う。7月に技術協力などの覚書を結んだ韓国造船最大手のHD現代グループと連携し、海外の海運大手などからの受注獲得をめざす。

15日には仏海運大手のCMA CGMから6隻のコンテナ船を受注したと発表した。液化天然ガス(LNG)駆動で積載貨物量1700TEU(TEUは20フィートコンテナ換算)と小型船だ。

商船三井もコーチンに原油タンカーの発注を検討している。ロイター通信によると、商船三井の橋本剛社長は9月にシンガポールで開かれたエネルギー業界関連のイベントに参加し、「インド政府は新しい船舶を国内で建造することを望んでいる。私たちもこのプロジェクトに関与したい」と語った。

インドの造船業は拡大が続いてきた。インド当局によると23年度の竣工は約200隻で20年度に比べ約3倍に増えた。

地政学リスクの高まりを受け、海運会社が発注を分散していることがインドの造船業にとって追い風だ。トランプ米政権が中国建造の船に対して入港料をとる措置を打ち出し、中国に船を発注することへのリスクも出てきた。

近年は資材価格の高止まりに加え、業績が好調な海運業界が発注を増やしていることなどを背景に船価の高騰が続く。人手不足も追い打ちを掛け需給が逼迫するなか、インドが受け皿として注目されている。

造船業(竣工量)の世界シェアは中国、韓国、日本の3カ国で計9割を超える。インドは上位に入らず、人材育成やサプライチェーン(供給網)の整備など課題も多い。

コーチンのマドゥ・ネア会長は29日、イベントのパネル討論で「インド造船業の成長には長期的な視点と投資が欠かせない。15年より先を見据えて忍耐強く取り組む覚悟が必要だ」と述べ、政府に継続的な支援を求めた。

国際海運の船は修理や定期補修などを経て20年以上は稼働する。建造した船の性能やアフターサービスなどで海運会社の信用を長期的な視点で得ていく必要もある。

(東京=鷲田智憲、ムンバイ=岡部貴典)

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