(写真=菅野 勝男)

「餃子の王将」を展開する王将フードサービスが客数維持や増加のために注力しているのが、「ぎょうざ倶楽部」と呼ばれるロイヤルカスタマー獲得のための施策だ。これが、値上げを重ねてもリピーターを生み出す源泉になっている。

記者は取材で訪れた「餃子の王将 国道大久保店」(京都府宇治市)で、ある光景を前に目を疑った。10組ほどの来店客の会計時の様子を確認したところ、ほぼ全員がスマートフォンアプリの会員画面か、会員カードを提示していたからだ。

その会員カードこそ、王将のファンが熱心に獲得を目指す「ぎょうざ倶楽部会員カード」だ。1回の会計金額500円につき、スタンプ1つが押印され、たまったスタンプの数に応じて割引券が発行される。

約半年で5万円飲食すればもらえる「プラチナ」新設

会員カードの年間発行枚数(会員数)は、21年度から4年連続で増加し、25年6月15日時点で過去最高の約132万枚となった。同会員による売り上げは全体の2割以上を占める。「通常の飲食店のロイヤルカスタマー比率は5〜10%くらい。20%はすごい」といちよし経済研究所の鮫島誠一郎首席研究員は話す。

会員カードは3種類あり、それぞれ割引率が異なる。例えば、スタンプ25個でなれるシルバー会員であればいつでも5%引きで飲食ができる。シルバー会員からさらにスタンプを25個集めると、会計が7%引きになる「ゴールド会員カード」にランクアップする。スタンプを集めるキャンペーンは半年間に1回ほどのペースで実施されており、期間中に集めたスタンプの数が特典交換の対象になる。

そして、25年1月には、会計が10%引きになる「プラチナ会員カード」を新たに導入した。「ゴールド会員以上の貢献をしているので、もっと何か考えてほしい」といった顧客からの熱い要望に応えたものだ。同社としても、顧客を囲い込むため、貢献度の高い顧客にはより多くの還元をしていくべきだとの考えに至ったという。

ただ、プラチナ会員になるにはゴールド会員カード獲得後、さらにスタンプを50個、つまり合計100個スタンプを集める必要があり、単純計算で5万円飲食しなければならない。

熱狂客が次々ステップアップ

ぎょうざ倶楽部の戦略担当も担う王将フード営業企画本部長の池田勇気常務取締役(写真=菅野 勝男)

しかし、王将の熱狂的なファンは、スタンプ100個を障壁とは捉えない。王将ヘビーユーザーの証しともいえるプラチナ会員数は、25年1〜6月のキャンペーン期間において、約19万人にのぼった。

この数には王将も驚いた。「想定の倍以上の方に会員になっていただけた」。王将フードで営業企画本部長を務める池田勇気常務取締役はこう話す。ぎょうざ倶楽部の会員のうち、約14%がプラチナ会員カードを所持していることになる。

ぎょうざ倶楽部は、00年から会員を募集している。サービス自体は25年ほど続いているが、会員数が特に伸び始めたのは17年ごろからという。

ぎょうざ倶楽部会員による売り上げが、全体の2割以上を占める(写真=菅野 勝男)

背景には、17年から、現在と同様のランクアップの仕組みを導入し、ゴールド会員に当たるプレミアムカードを設けたことがある。5%割引のカードを獲得後、さらに25個スタンプをためると、プレミアムカードを取得できるようになった。割引率は7%。購入金額に応じて割引率がステップアップしていくシステムを作ったことで、より多くの来店客を囲い込めるようになった。

この新たな仕組みの導入と同じ17年に開始したのが、スタンプの獲得数に応じた、「オリジナル限定グッズ」の提供である。

グッズは営業企画本部のメンバー数人が中心となって考案。女性社員が多いチームで、女性の目線で実用的なグッズを企画することで、王将のメイン顧客層である40〜60代の男性以外の層の獲得にも貢献している。例えばギョーザのストラップやラーメン用の器などの限定グッズは幅広い顧客層に人気だ。スタンプを獲得すれば必ず景品がもらえるのも、来店を促すきっかけになっている。

(写真=4点:王将フードサービス提供)

ぎょうざ倶楽部の会員カードはスマートフォンアプリに統一せず、紙のポイントカードやプラスチックのカード配布も続けている。アプリに統一した方がコスト削減にはつながるが、池田氏は「うちのコアのお客様はやはり40〜60代の方。アプリもカードも両方残して、使いやすい方を使用いただくのがよいと考えた」と話す。スマートフォンの操作に慣れていないシニア層はもちろん、毎年デザインが変わるカードをコレクションして楽しむ客もいるという。

(日経ビジネス 関ひらら)

[日経ビジネス電子版 2025年9月30日の記事を再構成]

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