
2025年9月のある土曜日の午後、東京・銀座にある高級ブランドのリユース店「KOMEHYO GINZA」。ショーケースには、エルメスやシャネル、ロレックスといった海外の高級ブランド品が並ぶ。商品を熱心に眺めていた20代の女性は、「新品は高過ぎて手が届かないので、中古品をよく購入する」と話す。


一方、同じ店内で、40代の男性は高級腕時計、ロレックスのスポーツモデルを真剣なまなざしで見比べていた。「資産性を考えて、再販価値のあるモデルをリユースで探すことが多い」と言う。かつてはボーナスで背伸びして買う存在だった高級ブランド品が、投資対象としても見られるようになった。
こうした光景の背景には、ラグジュアリーブランドの価格高騰と供給制限がある。例えば、シャネルの定番チェーンバッグ「マトラッセ」は過去10年で価格が3倍超の170万円程度にまで跳ね上がった。円安の進行だけでなく、ブランド企業側が原材料や生産コストの上昇分を価格転嫁したことも影響している。さらに、世界的な需要増を背景に、あえて供給を絞り込み、希少性を維持することでブランド価値を高める──そんな戦略的な言説も、業界内外で広がっている。
ロレックスも同様に、供給数を絞る方針を続けている。正規店での人気モデルの販売は一部の常連顧客に限定され、一般消費者が定価で購入するのは極めて難しい。結果として、富裕層には資産価値を備えた"投資対象"としての魅力が増す一方、一般の消費者からは手の届かない存在となっている。
中古市場は10年で2倍に
「正規店では買えないけれど、ブランド品が欲しい」。そんな消費者の需要を取り込んでいるのがリユース市場だ。希少性や状態などに左右されるが、人気ブランドの現行品が新品の6〜7割で買えるケースもある。専門紙のリユース経済新聞によると、10年代前半には1.5兆円だった市場規模は、23年に3兆円を超え、30年には4兆円に達すると見込まれている。少子高齢化などの影響で消費が伸び悩む日本では異例のペースだ。

リユース市場の拡大を下支えしている要因の一つに、消費者行動の変化がある。ブランド・宝飾品分野で市場シェア首位とされるコメ兵ホールディングス(HD)の石原卓児社長は「(フリマアプリの)メルカリなどが普及し、リユース品の相場も簡単に調べられるようになった。若い世代を中心に、中古品を一度は比較検討する消費者が増えている」と話す。

かつては「やむなく中古」を選んでいた消費者も、中古品への抵抗が薄れている。また、資産性を踏まえ購入の段階から再販を見据える人も増えている。アプリなどで個人間での再販も容易になった。さらに、供給が絞られ入手困難なロレックスやオーデマ・ピゲなどの人気時計モデルでは、中古価格が新品の正規価格を上回る「プレミア市場」も形成されている。
この高額品の流通を支えているのが、業者間オークションだ。自社での買い取りと組み合わせることで在庫を循環させ、需要の変動に対応している。ゲオHD傘下の日本オークション協会(JWA)はオークションを毎月主催。流通量は日本最大級を誇る。同じくゲオHD傘下のOKURA(おお蔵)もこうした場で在庫を循環させている。

一方、市場の拡大の裏では、偽造品の精巧化が進み、大きな脅威となっている。OKURA店舗運営課の鈴木隆之氏は「本革と見分けがつかない合皮が使われたり、シリアルナンバーや付属品まで模倣された"N級品"が増えたりしている」と明かす。画像では判別が難しく、実物での確認が欠かせない。
この課題に対し、各社は打ち手を急ぐ。OKURAでは、人材育成に注力する。「触感や匂いなど、人間の五感に頼らざるを得ない部分も大きい。経験豊富な鑑定士を育てることが欠かせない」と鈴木氏は強調する。
AIを活用する企業も出てきた。コメ兵でもAIによる真贋(しんがん)システムを導入。ルイ・ヴィトンなど主要9ブランドで精度99%超で判定でき、鑑定士の目利きと合わせて年間約2600点の偽物を水際で防いでいる。石原社長は、「AIに任せる部分が増えたことで、鑑定士は接客に注力できるようになった」とAI導入の効果を語る。

(日経ビジネス 中西亜美)
[日経ビジネス電子版 2025年10月6日の記事を再構成]
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