
オープンワークの協力で「社員がオススメする企業ランキング」を集計。首位の三井物産をはじめ、上位に総合商社や外資系大手が名を連ねた。待遇面だけでなく、社員が挑戦できる制度やオフィス環境が評価された。

日経ビジネスは、働き手が勤務経験のある企業を評価する口コミサイト「オープンワーク」のデータを基に、「その企業で働くオススメ度」を数値化し、外資系を含む上位100社をランキングした。
現役社員と2024年以降に退職した元社員が、同年1月以降に同サイトに投稿した10万件超の回答が対象で、「自分の勤務先に就職・転職することを親しい友人や家族にどの程度勧めるか」という質問に対し、0〜10段階で回答した結果を分析した。
近年、企業が重視するエンゲージメント(働きがい)と近い考え方だが、総合的な従業員の満足度や働きやすさ、社風などがより考慮されていると言える。例えば、いかに待遇が良く、愛社精神にあふれた会社であっても、必ずしもオススメ度は高くならない。その企業が信賞必罰に基づく出世競争が激しく、労働時間も長いハードな職場であれば、競争に勝ち残った当人は満足していても第三者に勧めづらいことも考えられるためだ。
「働きやすさ」「待遇」「人事制度の透明性」などの総合的な観点で環境が整っている企業こそ、オススメ度が高くなると考えていい。社員が成長を実感できているかも重要だ。オープンワークの大澤陽樹社長は「ベースになるのは報酬水準などの待遇面だが、優秀な人材に成長や挑戦の機会を与える社風や制度などもオススメ度を構成する要素になる」と指摘する。
上位企業が備える「4つのP」
ランキング上位には、総合商社や外資系大手など、待遇の良さと成長できる環境を兼ね備えた企業が名を連ねた。1位に輝いた三井物産は10点満点のオススメ度で8.84点という高スコアを記録。かねて「人の三井」とも称され、「自由闊達な雰囲気は端から見ていても感じる」(ライバルの大手商社関係者)と評価される同社にとって面目躍如というべき結果だろう。
トップ10には外資系が3社、総合商社では三井物産の他に三菱商事がランクインした。総合商社と外資大手が上位に並んだ結果について、大澤社長は「いずれの企業も従業員が組織に求める『4つのP』を備えている」と評価する。4つのPとは理念(Philosophy)、事業(Profession)、風土(People)、特権(Privilege)だ。理念は仕事の存在意義や社会貢献性、事業は仕事の内容や魅力を指す。風土は同僚や上司など一緒に働く職場の仲間の属性など。特権には待遇や人事制度などが含まれる。
4つのPが備わった企業は「情報の透明性が担保されたオープンさと、意見を闊達に出し合う自由さを両立できている」(大澤社長)。4つのPを制度や社風として根付かせるのは一朝一夕ではなし得ない。上位企業の多くは数十年単位で取り組み、発展させてきた。
上位企業は社員のエンゲージメントも総じて高く、「社員の声を環境整備に活用する」「社員が自ら進んでキャリアを考え、それを実現させる制度を整備する」といった基本が徹底されており、オススメ度の高さにつながっている。

トップの三井物産も例外でなく、年に1度、社員が将来のキャリア志向などを申告する「人材開発・活用調査表」という取り組みがある。30年以上前から導入されており、社員は将来的に関わりたい事業や配属希望の地域、過去に関わった上司、異動希望の時期などを調査票に記入する。同社人事総務部によると「当初はA4用紙にして2枚分くらいの情報量だったが、現在では6枚分ほどに増えている」という。各社員のキャリア志向を事細かに把握し、それを事業や社員自身の成長につなげようとする同社の姿勢が垣間見える。
24年7月には新たな人事制度も導入した。従来の総合職と一般職(同社では業務職)の垣根をなくして一本化。部長・課長などのライン長に達しない職位では3年ごとに転勤の有無について希望を出せるようになった。また、業務職の社員でも管理職になれたり、海外転勤ができるようになったりするなど、キャリア設計の自由度が増した。人事総務第二部長の今西伸一氏は「若い頃からどんどん挑戦できるだけの文化と環境を整えられている」と胸を張る。
社員の声を新オフィスに反映
制度というソフト面だけではなく、ハード面の整備も怠っていない。三井物産は新型コロナウイルス禍の20年、東京・大手町に新たな本社オフィスを稼働させた。
社内間交流を促すために13のフロアは内階段でつないだほか、移動が容易なオフィス家具をそろえ、コミュニケーションの取りやすいスペースも各フロアに備えた。従来から課題とされてきた部署ごとの「縦割り」を打破するためだ。
新オフィスには社員の声も積極的に取り入れた。約2000人の社員を対象に、どんなモニターや椅子が使い心地が良いかを聞き取り、集中して作業をしやすい席のレイアウトについても検討を繰り返した。新オフィス稼働後も、各部署にいる「人事管理担当者」が社員の意見を集約するなどして環境改善に生かしている。例えば、集中して執務をするための「フォーカス」のフロアは当初4つあったが、オンライン会議など本来の用途と異なる使い方をされるようになったことから、1フロアに減らした。

コミュニケーション活性化のための工夫は随所に見られる。例えば、社員食堂はランチタイム以降、1on1(ワンオンワン)の面談の場として使えるように開放し、1日100組程度が利用している。また、コーヒーマシンは待ち時間で会話が生まれるようにあえて、抽出時間が40秒ほどと長めの機種を設置。また、フロアごとに異なる飲み物を用意して、社員がフロア間を移動して他部署の社員とも交流する機会を増やすなど、細かなしかけが光る。
経営陣に意見する「目安箱」

オープンワークの投稿を見ると、上位企業に多く見られるのが「自由でオープンな社風」というコメントだ。例えば、3位のSAPジャパンは社員の声を吸い上げ、制度改善に生かす「目安箱」のような取り組みを10年代後半から開始。経営陣に対し、直接的に働き方や福利厚生について意見を投げられる制度だ。月に十数件ほど寄せられる意見を社長室が1件ずつ精査し、担当役員に共有する。同制度は22年に終了したが、子育て世代からニーズの強かった時短勤務制度の拡充や、傷病で働けなくなった時のための給与補償制度などの導入に生かされたという。
4位のアメリカン・エキスプレス・ジャパンも、トップと各部署の社員が対話する機会を設けるほか、社内のイントラネットで空いたポストの情報を開示し、人材を募る社内公募制度を運用している。
フィードバック制度も一般的な上司・部下の間だけでなく、部下から上司、部署の垣根を越えた関係性でも行う機会があるなど、キャリアの自由さと意見をオープンに議論する文化を育んでいる。
日本企業でも経営陣が社員とオープンな場で議論する動きは活発化している。例えば、47位のカゴメは山口聡社長が全国8支店や6工場に足を運び、年次や役職を問わずに希望者と会社のビジョンや課題を語り合う活動を続けている。


自社の長所をとがらせる
もっとも、厚待遇に社員が挑戦できる制度、充実したオフィス環境と、社員のオススメ度を高めるすべてをそろえられる企業は一部だ。限られた資源でいかに社員のオススメ度を高めるのか。
一つは「欠点を隠さないこと」だ。例えば、「20代社員に成長できる環境は提供できるが、賃金面では業界大手に及ばない」といった具合に、長所と短所をオープンにすることで好感度が上がりやすい。
「長所をとがらせる」ことも有効だ。オープンワークは企業を評価する指標として「風通しの良さ」「20代成長環境」「人事評価の適正感」など8つを定め、企業の評価スコアを算出している。何かを捨ててでも、1つの指標に特化して自社の強みをつくれば、それを評価する働き手を呼び込めるだろう。
SAPジャパンの鈴木洋史社長に聞く「忖度」排し、脱・エンゲージメント劣等生
2020年に社長に就任した私にとっての喫緊の課題はエンゲージメント向上だった。(独SAPの)各国の拠点で行う調査で、日本は最下位クラスのスコアが20年以上も続いていた。
当社も例に漏れず、日本的な「はっきりとものを言いづらい雰囲気」や「忖度(そんたく)の文化」が一部にあったように思う。
だが今や、当社のスコアは世界平均を超えるまで改善している。主な取り組みは2つ。心理的安全性を確保することと、社員の声を吸い上げ、環境改善に生かしたことだ。
心理的安全性の確保のため、管理職の意識改革を進めた。常に成長が求められる当社では、数字を重視するあまり、上司が厳しくレビューする文化があった。レビューではなく、成長を支援するコーチングへの意識転換のため、管理職には年2回、半日を費やしてコーチング研修を行うようになった。
社員の声を吸い上げる制度にも重なる取り組みとして、管理職を立ち会わせず、心理的安全性が確保された場で部下が自分の上司を評価する「アップワードフィードバック」がある。ヒアリングする内容は①継続してほしいこと②今すぐやめてほしいこと③これから始めてほしいこと──の3点。
社長の私とて例外ではない。時間的に余裕があるからと土日にまとめてやっていた(業務上の)メール送信は、社員の要望を受けてやめた。また、全社的に会議が多いという意見を受けて、金曜の午後は会議を原則禁止とするルールを取り入れた。

社員の「会社を良くしたい」という思いは強い。そうした一つ一つの声に向き合い続けた結果がエンゲージメント向上につながったのだと感じる。(談) アメリカン・エキスプレス・インターナショナルの須藤靖洋・日本代表に聞く
社員の「愛」を強くするのが経営者の仕事
口コミ調査で4位だったアメリカン・エキスプレス・ジャパンを含むアメックス日本拠点のコリーグ(社員)は、総じて会社への「愛」が強いように感じる。もちろん、私自身もそうだ。グループには社員を大事にする文化が根付いている。社員のエンゲージメントが高ければ、それだけ顧客に良いサービスが提供できると考えるからだ。
高いエンゲージメントを支える要素の一つが、個々人のキャリア形成を支える社内公募制度だ。私が入社した35年前には既にあった。当時は社内のカフェに待遇や業務内容などを記した社内求人票が掲示されていた。
私自身、日本代表になるまでに、9つの仕事、4つの異なるビジネス部門を経験し、13人の上司に仕えるなど「社内転職」を数多く経験した。
今の仕事に飽きても、社外に転職するのであれば、これまでの経験を生かした職種が中心だろう。だが、社内転職であれば、経験不足でも、それまでの部署でどのような役割を果たしたのかといった行動や過程も考慮される。社員はアメックスに居続けながら多様なキャリアを形成できる。
フィードバックの文化もまた、社員の多様なキャリア形成とエンゲージメントを支える要素だ。アメックスの評価制度は「ゴール(結果)」と「リーダーシップ(行動など)」が半分ずつ評価される仕組み。過程の中にある行動も、半期に1度のフィードバックでは一つ一つの行動が達成できたのかを確認し合う。そうした文化もまた、高いエンゲージメントの裏付けであると感じる。

会社への「愛」が強ければ、社員は自然に「うちはこんなに良い会社だ」と周囲に伝えてくれるようになるだろう。そのために経営者の努力は欠かせない。(談)
(日経ビジネス 神田啓晴、佐藤斗夢、玄基正)
[日経ビジネス電子版 2025年10月10日の記事を再構成]
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