トヨタ自動車=村田由紀子撮影

 トヨタ自動車が米国で最大100億ドル(約1兆5000億円)の追加投資計画を発表したのは、ハイブリッド車(HV)を中心とする底堅い需要を確実に取り込むためだ。同時に、トランプ米大統領が掲げる「米製造業復活」への貢献をアピールする思惑も透ける。

 トヨタは約70年前に米国へ進出して以降、これまで約500億ドルを米国内に投資してきた。現在、米国ではマツダとの合弁を含む11工場で計約5万人を雇用している。12日に出した声明で、トヨタは「米国企業の一員として、雇用と継続的な投資を通じ、地域に貢献していく」と強調した。

 10月のトランプ氏の訪日に合わせて日米両政府が発表した、日本からの対米投資に関する共同文書には、エネルギーや人工知能(AI)関連のプロジェクトや企業が並んだ一方、自動車分野の投資は盛り込まれなかった。

 トランプ氏はかねて「日本は何百万台もの車を米国に輸出している」などと不満を表明。関税交渉でも自動車がやり玉の一つに挙げられてきただけに、今回トヨタが追加投資計画を発表したことで、日本の自動車産業への“風圧”が和らぐ可能性もある。

 トヨタは計画の詳細を明らかにしていないが、さらなる投資へ踏み切る背景には、米国の環境規制の見直しや電気自動車(EV)の税額控除廃止でHVに「追い風」が吹いていることに加えて、関税コストの重さもあるとみられる。

 トヨタの米国販売車のうち現地生産は約5割。残りは日本からの輸入が約2割、メキシコ・カナダからの輸入が約3割だ。米国生産比率は2割ほどにとどまるマツダなどに比べれば高いが、それでも2025年9月中間連結決算では、北米地域の営業損益が1341億円の赤字になった。通期では関税の影響が営業利益を1兆4500億円下押しすると見込む。現地生産を増やせば、そのぶん関税コストの負担は軽くなる。

 一方で、課題となるのが国内生産とのバランスだ。トヨタは雇用やものづくりの技術水準を保つ目安として「国内生産300万台」の体制を維持する構え。30年代初頭の稼働を目指し愛知県豊田市で車両工場を新設する方針も公表している。国内外で事業環境の変化に対応しつつ、いかに最適な生産体制を築いていくか。今後も難しい判断を迫られそうだ。【鶴見泰寿】

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