
塩野義製薬は19日、JR大阪駅北側の複合施設「グラングリーン大阪」(大阪市北区)に開設する新しい本社オフィスを報道公開した。新本社をグローバル成長の基盤に位置づけ、これまで点在していた開発拠点などを集約。経営と開発の一元化を進めると同時に有望なスタートアップとの連携も深め、画期的な医薬品などを生み出す拠点に育てる。
「世界から情報やヒトをリアルタイムで集め、真の意味で人材交流と戦略策定が可能な場にしたい」。塩野義の手代木功社長は同日の記者会見で新本社に寄せる期待を語った。オフィスは27日から本格稼働する。

塩野義は1878年の創業以来、「薬の街」として知られる道修町(どしょうまち、大阪市中央区)に本社を置いていた。今回、グラングリーン大阪の南街区にあるオフィスビル「パークタワー」高層階の3フロアにテナントとして入居する。総延べ床面積は1万2000平方メートルと現本社の1.8倍となる。
19日は社員が自由に席を選ぶことのできるフリーアドレス制のエリアや開放的なディスカッションスペースなどを公開した。フロア中央には各階を自由に行き来できる大階段を配置し、部署やグループの垣根を越えて利用できる「ワークコモンズ」も設けた。イスラム教を信仰する社員が礼拝や瞑想(めいそう)ができる祈祷室もある。
同社は「出社したくなるオフィスづくり」に取り組んでいる。10月には出社規定を「月5日以上」から「月10日以上」に見直した。打ち合わせや雑談などで周囲と率直なやりとりが出来る風通しのよい環境を整えることで、各社員の能力を引き出すとともに、ビジネスアイデアの創出につなげる。
新本社には営業や管理部門のほか、道修町周辺に分散していた医薬品開発やデジタルトランスフォーメーション(DX)などの部署も合流する。グローバル競争に勝ち抜くためには、経営と開発の連携を深めて新薬の市場投入のスピードを上げる必要があるためだ。
「これまで部門間の移動に時間がかかることもあったが、新本社では最短距離でコミュニケーションが可能になる」(河本高歩人事部長)。グラングリーン大阪は約1100人のグループ社員が快適に働くことが出来るキャパシティーや機能、交通アクセスなど総合面で優れていた。
グラングリーン大阪では地場のスタートアップ育成にも力を入れている。産官学連携のイノベーション施設「JAM BASE(ジャムベース)」を運営しており、高い技術力を持つ新興企業もオフィスを置いている。塩野義はこうした新興企業と幅広く交流することで、ヘルスケア関連の新製品やサービスを生み出したい考えだ。

グラングリーン大阪は三菱地所などが旧梅田貨物駅跡地に整備した。オフィスフロアは24年11月に開業。26年春にはクボタやエア・ウォーター、コクヨも本社を移す予定だ。
関西発祥の企業でも武田薬品工業など、世界展開を見据えてグローバル本社機能を東京に置く例は珍しくない。世界展開を前提としたオフィス供給の少なさも相まって、大阪経済の地盤沈下の一因ともなっていた。
大阪ではカジノを含む統合型リゾート(IR)だけでなく、難波地区などの再開発も今後本格化する。グラングリーン大阪が目指すようなイノベーション創出型のオフィスが充実することが、ビジネス都市として世界で存在感を示すための条件となる。
(竹内なな子、田村修吾)
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