柳栄一さん(右)の指導を受けブドウ栽培の作業する参加者=沼田市で2025年10月30日午後3時22分、山越峰一郎撮影

 DAO(ダオ)という概念が、地方創生の分野で注目されている。「分散型自律組織」の英語の頭文字を取った用語で、中心となるリーダーやヒエラルキーをなくし、参加者が主体的に動く。群馬県もDAOに着目し、未利用の中山間地にブドウを植えて自然派ワインの産地とする事業を開始。県外からの参加を呼び込んでいる。【山越峰一郎】

 10月末、沼田市のブドウ畑に10人ほどが集まった。DAOの事業に参画して畑に区画を持ち、育てたブドウでワインを造ろうとする人たちだ。生産者とともにブドウの苗の手入れに励んだ。

 東京都品川区のITコンサルタント、斎藤圭吾さん(44)は「旅行だと地域の生活を知ることは難しい。ここでは話を聞ける機会が多い」と参加の理由を語った。

 DAOにひかれた人もいる。東京都千代田区の会社員男性(36)は「新潟のプロボノ(専門職ボランティア)に参加したことがあるが、受け入れ側との関係がこじれて空中分解した。DAOならば、それぞれの参加者が手を挙げて行動することができる。日帰りできる群馬だったのも理由の一つ」と話した。

 事業は、県による「ぐんま山育DAO」。県は総合計画で掲げる自立分散型社会の実現に向けて2022年からWeb3(分散型インターネット)を研究する中で、DAOに着目した。地域の団体やコミュニティー、市町村、スタートアップがDAOを活用し、地方創生や産業創出につなげるガイドラインを策定した。

 24年12月に具体的な取り組みとして「ぐんま山育DAO」を開始。県庁にある官民共創スペース「NETSUGEN」での交流をきっかけに、利根沼田で自然派ワインの産地化を目指す事業者と連携することに。人や投資を呼び込んで持続可能な地域を作り、収穫祭や試飲会などのイベントで関係人口を増やすのが目標だ。

ぐんま山育DAOが東京・青山で開いているワインイベント=2025年10月23日午後7時33分、山越峰一郎撮影

 参画には、一口あたり個人1万2000円、法人120万円の非上場株式を購入。出資者は畑を共同運営する権利や、醸造したワインを優先的に購入できる権利などを得られる。これまで100人以上から500万円超の出資金を調達した。SNS(交流サイト)で情報を発信し、月2回のオンライン総会を開き、東京でワインバルイベントも開催する。

 栽培の指導を担うのは、群馬自然派ワイン研究会の柳栄一代表(66)。出身は東京都だが県内に移住し、自然派ワインの産地化を進めている。

 自然派ワインは無添加で醸造し、ブドウを有機栽培するため、農薬を使った栽培を行ってきた既存の産地では歓迎されない。そこで、実証実験の畑(約1ヘクタール)は使われなくなった牧草地の斜面を活用。土壌には軽石が混じって水はけが良く、栽培に向いている。柳さんは「標高500メートルと高く、寒暖差もある。台風や大雨も少ない」と地の利を語り、中山間地で栽培を広げようとしている。

 植えているのは日本のヤマブドウを親に持つ品種。「ヨーロッパの品種は雨で腐りやすく、手間が増えて日本に向かない」という。草刈りやツルのテープ止めなどは人手がかかるが、DAOならば参加者が楽しみとして来県してくれ、一気に作業できるのがメリットだ。

 自然派ワインのプロジェクトは来年、ワイナリーを完成させて、試験醸造を目指す。DAOで植えたブドウによる醸造は数年後に始まる予定だ。

 柳さんは「ベリー系の香りが強く、華やかさもある品種。長期熟成させられるので、高価格で、群馬の自然を感じられるワインになる」と期待する。ワインが熟成する頃には、地域と参加者の関係にも深みが出ているはずだ。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。