
政府の原子力総合防災訓練が11月28〜30日の3日間、四国電力伊方原子力発電所(愛媛県伊方町)で行われた。地震により原発事故が発生した想定で、情報伝達や住民の広域避難の手順などを確認した。能登半島地震を踏まえたシェルターの配備やドローンによる情報収集なども試した。住民も含め約2万人の関係者が参加した。
政府主催の原子力防災訓練は毎年開催される。愛媛県での開催は2015年以来10年ぶり。今回の訓練は伊方町沖を震源とした最大震度7の地震が発生し、伊方原発3号機の原子炉が自動停止し、冷却機能を喪失した状態を想定した。

地元側では愛媛県庁のほか、半径30キロメートル以内の愛媛県内の市町や山口県上関町などで実施した。伊方町や西予市などでは約500人の住民が訓練に参加した。
愛媛県は訓練開始の28日午後2時に災害対策本部を設置。中村時広知事も参加し、伊方町など関係自治体や四国電力などと情報伝達や住民避難に関する流れを確認した。
29日には高市早苗首相が首相官邸で緊急事態宣言を発出。関係自治体に対して住民避難を指示した。

国や自治体の事故対処拠点となる県オフサイトセンター(西予市)でも29日、30キロ圏にある自治体や四国電力の職員らが集まり対応を確認した。派遣された辻清人原子力防災担当副大臣を現地対策本部長とし情報収集などにあたった。
伊方原発が立地する佐田岬半島は日本一細長い半島として知られ、災害時には道路の寸断などによって集落が孤立する恐れがある。29、30両日には自衛隊や海上保安庁の協力を得て、ヘリコプターや巡視船などで孤立地域からの避難訓練を行った。
29日に予定されていた大分海上保安部の巡視船による大分県への住民避難は大分市佐賀関の大規模火災の影響で中止となった。住民が伊方町の三崎港で松山海上保安部の巡視船に乗り込む段取りまでを確認した。
30日には全国で初めて可搬式エアシェルターが配備された。シェルターは空気清浄機でろ過した空気を送り込み、内部を外部より気圧の高い状態に保つことで、外部の放射性物質などの汚染物質の侵入を防ぐことが可能だ。

今回の訓練で同シェルターが配備されたのは、能登半島地震で放射線防護対策施設が地震などにより損傷し、屋内退避が困難になったことを踏まえてのことだ。
シェルターは幅約6メートル、奥行き8メートル、高さ2.5メートルある。折りたたみ時は2人で持ち運びが可能で5分で設営できるため可搬性と迅速な設置を両立できる。
ドローンを活用した訓練も実施した。15年の原子力防災訓練で用いたドローンからは飛行距離が5倍、飛行時間は2.6倍に増えた。大幅に機能が拡充し、広域の情報収集が可能になった。拡声器つきドローンによる上空からの広報活動や、大型物流ドローンを使った退避用資機材の運搬訓練も行った。
四国電力も28、29日に伊方原発構内で訓練を実施した。28日は伊方原発の管理区域内でけがをした2人が放射性物質に汚染された想定で、応急措置と搬送までの手順を確認した。看護師らがけが人の体や靴などの汚染状況を計測しながら応急措置にあたった。

29日には原発内にがれきが散乱した状態を想定し、無線重機を活用した遠隔操作によるがれきの模擬撤去を行った。地震の影響で管理区域外のアンモニアタンクの出口配管から薬品が漏れ、人が近づけない中、ロボットを活用してバルブを閉める訓練を実施した。
(安部将隆)
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