パルGHDは若い女性向けのアパレルブランドを手掛ける(写真=パルグループホールディングス提供)

急成長する雑貨店「3COINS」を展開するのがアパレル大手のパルグループホールディングス(GHD)だ。1カ月単位で商品を売り切るスタイルは同社のアパレル事業から生まれた。発注精度にも磨きをかけており、粗利率はユニクロを展開するファーストリテイリングを超える。

パルGHDの松尾勇会長は「我々の事業は服から入っている。メインはアパレルだ」と強調。アパレル事業は売上高全体の約6割。同事業の売上高営業利益率は14%と、雑貨事業(7%)より高い。大和証券の川原潤シニアアナリストは「3COINSだけでなく、パルGHDのアパレル事業も高く評価している」と語る。

パルGHDのアパレル事業の特徴は、「ブランド群戦略」とも言える多ブランド展開にある。「チャオパニックティピー」や「カスタネ」など、若い女性向けを中心に60近くのブランドを展開。創業者の井上英隆氏が社員の力を引き出し、ブランド立ち上げを促してきた。

「パルマップ」に基づいてブランド展開 

アパレルは流行により業績がぶれやすい。そこでパルGHDでは下の図のような「パルマップ」というブランド管理の考え方をとり、タイプの異なるブランドをバランス良く手掛ける。パルマップはファッショントレンドは4つのゾーンを12年周期で反時計回りに一巡するように変遷するという経験則を基にしたものだ。ちなみに今のトレンドは右上のゾーンで「コンサバなエレガンスの時代」(パルの小路順一社長)だという。

「パルマップ」と呼ぶ独自の考え方で複数ブランドを展開する(写真=パルグループホールディングス提供)

「カジュアルすぎるから、もう少しきれいめの素材を使ったらいいんじゃないか」。パルが年4回ほど開く商品会議では、社長、役員や商品担当者が集まり、パルマップを念頭に置いて意見を交わす。この商品会議は社内で「マップ会議」と呼ばれる。

新規ブランドを立ち上げつつ、一定の基準を基に振るわないブランドは廃止することで、ブランドポートフォリオの新陳代謝を進めている。

パルマップ上で足りないブランドを、M&A(合併・買収)で手に入れることもある。24年には「ノーリーズ」の運営会社を買収した。人気に陰りが見えるブランドを割安な価格で次々と傘下に収める。「うちは関西系の会社。高値づかみはしない」(小路氏)

2015年に完全子会社化したナイスクラップは赤字続きだったが、成果に連動する賞与を手厚くしたり、SNSも活用して電子商取引(EC)販売を拡大したりして業績が拡大基調にある。25年2月期の売上高は169億円と10年間で約8割増え、経常利益は過去最高の15億円だった。

(写真=会社ロゴ:大亀京助)

「成長力が非常に強い会社」

パルGHD全体も業績拡大が続き、時価総額は8月中旬時点で約5000億円と、アパレル業界ではユニクロを展開するファーストリテイリングやしまむらに次ぐ水準だ。「国内のアパレル企業では成長力が非常に強い会社」(大和証券の川原氏)。成長期待が株価を押し上げている。

粗利率や販管費率を同業他社と比べると、下の図のようになる。ファストリや良品計画は、いずれもパルGHDと同じSPAのビジネスモデルだ。特にアダストリアはブランドを多数展開する事業構造がパルGHDと共通している。

4社ではパルGHDの粗利率が56%と最も高い。同社のカジュアルブランドの商品単価は4000〜6000円程度と、決して高いわけではない。それでも粗利率が高いのは、過剰な在庫を持たず値引き販売を抑えているからだ。

14〜15年に確立した4週間MDに基づき、1カ月単位の短いサイクルで在庫を積まずに商品を売り切る。従来は8週間で商品を入れ替えていた。4週間MDのもとで商品を切り替えるスピードを従来の倍にして商品の発注数量を極力抑えている。

社内インフルエンサーによる販促やECも駆使して、以前は1割を目安としていた最終廃棄する売れ残り商品の比率を5%未満に減らした。こうしたアパレル事業で培った効率経営は3COINSにも導入されている。

為田招志取締役専務執行役員は「4週間MDは新型コロナ禍で進化した。店舗で商品が売り切れても仕方がないと割り切れるようになった」と語る。小売業では店頭の欠品を防ぐことが重視されるが、パルGHDは在庫効率を優先し多少の欠品は容認する。ECで商品の予約販売を受け付け、予約状況を基に発注数量を積み増すなど発注精度に磨きをかけている。

パルGHDはバブル崩壊や新型コロナ禍といった危機を乗り越え、アパレル業界の常識にとらわれず試行錯誤を重ねてきた。3COINSもその産物の一つと言える。24年には創業者の井上氏が会長を退任した。カリスマ経営者が経営の中枢を離れた後も、成長を持続できるかに注目が集まる。

(日経ビジネス 梅国典)

[日経ビジネス電子版 2025年7月23日の記事を再構成]

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