海底ケーブルはインターネットや国際電話など海外とのデータ通信に欠かせない「情報の大動脈」だ。メーカーとしてはNECが世界3強の一角を占め、設置に欠かせない敷設船はNTT系などが手掛ける。同社は船の新造を検討している。海底ケーブルは経済安全保障の観点から重要度が高まっており、日本政府は支援政策を通じた官民一体の体制の構築に乗り出した。

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予備の海底ケーブルを保管する貯線槽(10日、横浜市)

海底ケーブルの敷設を手掛けるNTTワールドエンジニアリングマリン(NTT-WEマリン、東京・港)は10〜11日、横浜に寄港したケーブル敷設船「SUBARU(スバル)」の船内や関連施設を公開し事業戦略を説明した。

SUBARUは全長124メートル、総トン数9557トンに及ぶ大型の敷設船だ。2026年1月には故障修理工事のため再び出港予定だという。24年度の運用実績は稼働日ベースで6割強だった。SUBARUは1999年の建造で老朽化している。NTT-WEマリンはSUBARU相当の新型船を10年内に建造する検討をしていることを明らかにした。

NTT-WEマリンはこれまで、国内外合わせて約5万1000キロメートルを超えるケーブルを敷設してきた実績がある。敷設だけでなく、建設に適したルートを選定するための海洋調査やNTTグループが保有するケーブルを中心に計11のケーブルシステムの保守も担う。

デッキ上にある鋤式埋設機(10日、横浜市)

船に何千キロメートル分ものケーブルを積み込み、海底面にはわせながら時速約4〜7キロメートル程度で敷設する。水深約1000メートル以下の浅い海域では漁や投錨(とうびょう)によるケーブルへのダメージを未然に防ぐため、鋤(すき)やジェット水流で溝を掘る装置などを使い、ケーブル敷設と同時に海底下へ埋設する。

船のいかりなどで損傷しやすい浅瀬では鉄線でケーブルを太くして耐久性を高めるなど、水深に応じて製品を使い分ける工夫も施す。

船舶の位置を制御する「DPS」(10日、横浜市)

海底ケーブルを決められた位置に正確に敷設するためには、計画したルートに沿って船を正確に航行させる必要がある。そのために不可欠なのが「DPS(ダイナミックポジショニングシステム)」と呼ばれる自動船位保持装置だ。風や潮の流れ、波などを自動計算して洋上で船を決まった位置に留めることができる。

海底ケーブルは動画視聴や人工知能(AI)の普及などに伴う通信需要の急増に対応し、経済安保の要となるインフラだ。現在、世界で約570本、地球約37周分に相当する148万キロメートル前後の海底ケーブルが使われる。

周囲を海に囲まれる日本は国際通信の99%を海底ケーブルが支えており、切断や損傷が起きると経済・社会活動に影響が出る。

海底ケーブル自体は仏アルカテル・サブマリン・ネットワークス、米サブコム、NECの大手3社でシェア9割を握る。そのうちNECは2割超のシェアを持ち、まだ小さいものの、過去に中国・華為技術(ファーウェイ)傘下にあったHMNテクノロジーズが追う構図だ。

海底ケーブルや敷設関連「国産が理想」

NTT-WEマリンの平林実取締役は「経済安保上、ケーブル、船舶、敷設機器の部品など国産でまかなうのが理想」と話し、中国勢が勢いを増していることに危機感を示す。

ケーブルと敷設船の需給は逼迫している。敷設も手掛けるNECにとって船の確保は直近の大きな課題だ。これまでは敷設船を持たず案件ごとに長期チャーターなどでまかなってきたが、今後は自社での保有も視野に入れはじめた。

日本政府はこれまで海底ケーブル市場に積極的に関わってはこなかった。しかし、世界で地政学リスクが高まる中、敷設船の購入などを支援する方向にかじを切った。

NTT-WEマリンの平林氏は「昨今の通信需要に対し、海底ケーブルを敷設する船が足りていない」と認める。専用船の購入には1隻当たり数百億円がかかるほか、維持費も必要になる。NECは政府支援を得てコストを抑えながら専用船を確保していく腹づもりだ。NTT-WEマリンはNECからの受注実績がある。今後もニーズに応えていく。

説明会に登壇したNTT-WEマリンの平林実取締役(10日、横浜市)

海外では海底ケーブルを戦略インフラと位置付けて国家をあげて振興する動きが活発だ。フランス政府は2024年末に、フィンランドの通信機器大手ノキアから海底通信インフラを手掛けるアルカテルの株式を買い取り国有化した。サブコムは米国防総省が重要顧客として需要を下支えしている。

GAFAMもケーブルに投資

近年ではプラットフォーマー(基盤提供者)である米国のテック大手GAFAMもインフラとしての重要性に気付き、自ら海底ケーブルの敷設に乗り出すなど投資を進めている。

従来、海底ケーブルの所有者はキャリアを主体とするコンソーシアム(共同事業体)が中心だった。こうした動きのなかでNTT-WEマリンは、メタやグーグルといった巨大テック企業からの大型案件も受注し収益拡大を狙う。経済安保色は一段と強くなっている中、企業間の陣取りも激しくなることが予想される。

(田中瑠莉佳、張谷京子)

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BUSINESS DAILY by NIKKEI

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