クラウド大手各社は自社サービスをスタートアップに利用してもらうためにAI基盤の強化を進めている
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週1回掲載しています。

画像処理半導体(GPU)の不足とモデルのエコシステム(生態系)の進化に加え、ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)各社のアプローチの違い――包括的なAI基盤からモデルの中立性、企業との提携関係まで――により、スタートアップのクラウド選択方法は変わりつつある。では、AI開発スタートアップは何を基準にクラウドを選び、どのクラウド事業者がシェアを高めているもしくは、失っているのか。

ハイパースケーラー各社のAIスタートアップ市場シェアの変化。出所:CBインサイツ

米グーグルはAIネーティブ基盤で初期の実験を長期利用に結び付けている。グーグルは開発者向けAI開発サービス「Google AI Studio」、AIプラットフォーム「Vertex」、データセンターの米サイファー・マイニングを通じた膨大なインフラなどからなる包括的なエコシステム「Gemini(ジェミニ)」で、スタートアップのAIチームを開発初期段階でGCP(グーグル・クラウド・プラットフォーム)に取り込んでいる。

この戦略は成功している。グーグルの2025年7〜9月期のクラウド受注残高は前四半期比46%増の1550億ドルに達した。AIサービスの売上高がけん引した。GCPで実験を始めたスタートアップの多くはそのままGCP上で拡大するため、グーグル・クラウドの24年以降のシェアは22〜24年比4ポイント上昇して38%となり、ハイパースケーラーで最もシェアを伸ばした。

こうしたスタートアップは実験から本番環境への移行に伴い、グーグルのエコシステムでのクラウド支出を大幅に増やしている。

AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)はシェアが低下しているものの、中立性で競争力を維持している。AWSのシェアは33%から30%に低下したが、拡大著しいAIモデル分野を生き抜くAIスタートアップにとって、その「中立的な」スタンスは依然として魅力的だ。

AWSの基盤には独自の大規模言語モデル(LLM)がないため、幅広い計算資源の利用、大規模なクレジットパッケージ(無料サービス)、複数の外部モデルとの相互運用性を求めるチームを引き付けている。

AIスタートアップの創業者らは特定のクラウド事業者に囲い込まれないようにし、AIモデルのプロバイダーも多様化しているため、AWSの中立性はさらに価値が増す可能性がある。

米マイクロソフトのアジュールは、大企業ファーストの提携によりスタートアップの利用が広がっていない。アジュールは法人向けサービスと、米オープンAI(Open AI)および米アンソロピック(Anthropic)との提携を重視する戦略を維持している。

これは大企業には有効だが、AIスタートアップの利用拡大にはつながっていない。シェアがやや低下したことは、スタートアップが実践的なAIツールを備えたエコシステムに流れていることを示している。

マルチクラウドは戦略ではなく生き残るための策だ。AIスタートアップの約25%は複数のクラウドを使っている。アーキテクチャーをえり好みするためではなく、GPU不足により手に入る資源をかき集めて計算環境を構築せざるを得ないからだ。

大半のスタートアップは、まずはクレジットプログラムを通じて1つのクラウドを使うが、容量が圧迫され、他のプロバイダーを追加する。ハイパースケーラーは容量拡大を競っているが、この(戦略ではなく)必要性に駆られたマルチクラウドのパターンは今後1〜2年は広がり続けるだろう。

注目点は、ハイパースケーラー3社がスタートアップやベンチャー・キャピタル(VC)との提携を担う部門を拡大するため積極的に人員を採用しているところだ。スタートアップ、特に動きの速いAI企業との提携は事前の関係づくりが土台になる。3社はいずれもスタートアップ向けプログラムを通じた直接的手法か、VCなどエコシステム内の他社との関係を通じて新規スタートアップを獲得する専用部署を設けている。

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