重さ40キロのコンクリート製のふたでも、一人で軽々と持ち上げ、取り外すことができる側溝ふた上げ機「キャッチリフター」。製造元の「旭ゴム化工」(名古屋市千種区)の林雅洋社長(55)が、初めてその試作品を見せられたのは18年前のことだ。
当時、岐阜県内の工場に勤務していた社員が、業務の傍ら、工場内の溶接設備を使ってコツコツと作ってきた。会社の本業はゴムやプラスチック製品の製造だったが、「面白いな」と手応えを感じた林さんは商品化を決定。2008年の販売開始以来、地域清掃や災害時のアイテムとして各地で利用され続け、現在までに約1600台が売れるヒット商品となっている。
試作品見せられ、商品化決める
「面白いものができそうなんだわ」
07年ごろ、岐阜の工場に行った林さんは、試作開発室室長の河嶋武彦さん(現OB)からこう声をかけられた。脇には完成したばかりの試作品があった。
聞くと、着想は河嶋さんの実体験。町内会で道路の側溝掃除をしたのだが、ふたを外す道具が使いにくくて仕方なかった。「自分ならもっと良い物を作れる」と開発に着手し、取引先の金属加工会社の協力も得て、完成させたという。
試作品を見た林さんが商品化を決めるまで、時間はかからなかった。何より、社員の挑戦がうれしかった。
てこの原理生かす
キャッチリフターは鉄製で、ふたをつかむアーム部分と、アームにつながる棒の部分から成る。アームの爪部分をふたの両側に差し込んでつかみ、棒部分を押し下げると、てこの原理でふたが持ち上がる仕組みだ。爪部分に返しがなく、側面の摩擦抵抗とふたの重みによって滑り落ちない。そのためアーム部分を手で装着しなくとも、ふたの両側に差し込むだけでよいのが特長。車輪が付いているため、ふたを持ち上げた後、そのまま棒を引いて移動させることができる。
一輪タイプ(高さ85センチ、重さ約10キロ)と二輪タイプ(90センチ、約15キロ)の2種類。安定感があり、一人での作業も問題ない。
防災備品として評価高く
販売を開始すると、水害に備えた防災備品として市役所や町内会を中心に売れた。三重県伊勢市のおはらい町通りでは昨年7月、地元住民が水害対策として側溝掃除に利用。同年1月の能登半島地震で液状化被害を受けた地域でも、ボランティア団体が側溝掃除に活用するなど各地で導入され、「作業が楽になった」「とても便利」と評価も高い。
「まずは挑戦してください。やらないよりは、やって失敗してください」。林さんが会議などで繰り返し口にする言葉だ。困難なテーマに挑戦するこうした姿勢の背景には、かつて味わった手痛い経験がある。
挑戦にこだわり、自由な気風
同社は、林さんの父貞雄さんがゴムに将来性を見いだし、名古屋市中区で起業。1970年代初めには大手スポーツ用品メーカーと契約し、ゴルフクラブ用グリップのゴム部分の生産を一手に引き受けるようになった。だがその大手メーカーは間もなく、ゴム部分の生産を海外メーカーに変更。受注が一気になくなった。
こうした経験を教訓に、林さんたちが目指してきたのが少量多品種のものづくりだ。「下請けという地位に甘んじていてはだめ。発注が少ない時でも、売れる商品を持っていれば工場の稼働を落とさずにいられる」。顧客のニーズに応えるには、開発力は不可欠。同社が挑戦にこだわる理由はそこにある。
従業員が直接社長にアイデアを披露し、形にできる。こうした自由な気風を強みに、これまでもさまざまな商品を生み出してきた。「『オリジナル商品を作っていこう』というチャレンジ精神が一人一人に根付いている」と林さんは胸を張る。
次の展開はキャッチリフターの派生商品の企画。一丸となって開発に力を注ぎ、キャッチリフターを会社のPR商品として活用していく計画だ。【岡村恵子】
旭ゴム化工
1963年設立。ゴム製品、プラスチック製品などの企画、開発、設計、製造を行う。自動車部品のほか、スポーツトレーニング用具、医療機器部品なども手がける。地域で行われる防災イベントに積極的に参加し、キャッチリフターをPRしている。価格は一輪タイプが4万7700円(税込み)▽二輪タイプが6万4700円(同)。
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