「チョコボール」の(左から)「いちご」「ピーナッツ」「キャラメル」=梅田麻衣子撮影
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 クリスマスが近づくと、ツリーの飾りやイルミネーションで、エンゼル(天使)をよく見かける。エンゼルといえば、思い浮かぶのが森永製菓(東京都港区)の「チョコボール」だ。チョコレートの取り出し口(くちばし)がくじになっていて、側面にエンゼルマークがあれば「当たり」。金なら1枚、銀なら5枚で「おもちゃのカンヅメ」がもらえる。クリスマス目前、チョコボールとエンゼルに込められた思いに迫りたい。

夢と笑顔、届けるエンゼル

 子どものころから今までに当たったエンゼルマークは、銀3枚と記憶している。捨てていないので、実家のどこかにあるような……。新たなエンゼルマークとの出合いを夢みて、家族や同僚に協力してもらいながらチョコボールを食べ続けた。17箱目、職場で「チョコボール いちご」を開けると、くちばしに銀のエンゼルが! 思わず「おおっ」と声が出た。想像していた以上にうれしい。同僚たちが、小さく拍手をしてくれた。

 森永製菓の菓子マーケティング部チョコボール担当の中野詩菜(しいな)さんに聞いた。チョコボールは1967年に発売され、当初はキャラメルの入った「チョコレートボール」、ピーナツ入りの「ピーナッツボール」、ナッツチップ入りの「カラーボール」の3種類だった。今ほどチョコレートが身近ではなかった時代。子どもが気軽に食べられるよう、手に付きにくくて丸い形にした。パッケージには当初から、鳥のキャラクター「キョロちゃん」が描かれている。69年には、「チョコボール」と改称された。

 実は、キョロちゃん誕生のきっかけは、パッケージにあった。前身にあたる商品から改良し、内側のサックを引き上げると、くちばし部分が現れるようなパッケージを採用。「このくちばしが開いた姿が鳥に似ていることから、鳥の『キョロちゃん』がキャラクターになったんです」と中野さん。ちょうど目の部分には、プリントされたチョコボールが1粒。確かに鳥に見えますね。

発売当初の「チョコボール」。当時の名称は「チョコレートボール」。くちばしはパッケージを引き上げてから開ける形だった=森永製菓提供
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 今でこそ関連グッズもあり、大人気のキョロちゃんだが、最初は「目つきが悪い」「変な鳥」などと、社内の評価は散々だった。開発担当者が「キョロちゃん」と名付けたのは、目がキョロキョロしているから。「せめて名前くらいはかわいくしよう」と考えたそうだ。初代は今よりスリムでシャープな顔立ち。時を重ねて少しずつ変化し、2013年に登場した現在の5代目は、全体的に丸みを帯びていて愛らしい。

 ちなみに、開ける時に、パッケージ上部のくちばしだけを起こすようになったのは74年のこと。チョコボールの空箱をよく見ると、「キョロック」と書かれた切れ込みがある。くちばしの切れ込みとパッケージ本体の切れ込みをかみ合わせると、くちばしが開きにくくなり、持ち運びに便利だ。よく考えられている!

 いよいよ、おもちゃのカンヅメについて聞いてみよう。ずばり、金と銀のエンゼルはどのくらい入っているんですか? 「秘密です」ときっぱり言い切る中野さん。そして「ずっと秘密にしています。開ける時に、『当たるかな』とワクワクしながらチャレンジしてほしいんです」と続けた。なるほど。

 ならば、昔のエンゼルマークでも、カンヅメはもらえるんですか? 「はい。もちろんです」と中野さんはほほ笑む。最近も、50年以上前のものが送られてきたそうだ。私も実家を捜そうかな……。おもちゃのカンヅメは、年約8万人に届けられている。あきらめずに集めたら、意外にチャンスはあるのかもしれない。

 発売当初からあったカンヅメのプレゼント。最初は「おもちゃ」ではなく「まんがのカンヅメ」だった。漫画のミニ本やおもちゃが入っていたそうだ。デザインは漫画界の巨匠・赤塚不二夫さん! 豪華ですね。

 69年には、おもちゃのカンヅメとなった。缶自体で遊べたり、男の子用と女の子用があったり、20世紀最後には「過去缶」「未来缶」(99年)があったり。時代の空気や流行を取り入れながら毎回工夫を凝らしている。

現在の「キョロクレーン缶」=森永製菓提供
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 56種類目にあたる現在のカンヅメは、クレーンゲームとしても遊べる「キョロクレーン缶」。中野さんがおもちゃ屋さんに足を運んだり、市場調査をしたりして中身を決めた。詳しい内容は……こちらも秘密だという。「子どもの夢なので。社長も知らないんですよ」と明かす。当たった人だけのお楽しみなんですね。

 森永製菓は1899年、森永太一郎氏が創業。エンゼルは1905年からシンボルマークとして使われている。当時作っていたマシュマロが、欧米で「エンゼルフード」と呼ばれていることにヒントを得て、天使をモチーフにした。子どもたちに夢と希望を届ける象徴的な存在と考えたのだ。今もエンゼルをかかげている。

 キャラメルやビスケット、アイス、栄養補給ができるゼリーなど、幅広く手がける森永製菓。大切にしているのは「世代を超えて愛されるすこやかな食を創造し続け、世界の人々の笑顔を未来につなぐ」こと。中野さんは「チョコボールも世代を超えて、日常を彩る商品。チョコボールとキョロちゃん、おもちゃのカンヅメの『三位一体』でお客さまに楽しさをお届けしたい」と熱く語る。

 発売からしばらくの間、くちばしが金色だったり、星印がついていたりした時期もある。エンゼルマークを「当たり」に起用した経緯についての記録は残っていない。それでも「子どもたちに夢と希望を届ける」という思いとおもちゃのカンヅメに詰め込まれた思いはぴったり重なる。世知辛い世の中、誰もがクリスマスを楽しく迎えられるとは限らないけど、子どもの笑顔を愛するエンゼルは、きっと近くにいる。【水津聡子】

キョロちゃん、華麗に変身

2020年に販売された「チョコボール がんばるラムネ」=森永製菓提供
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 小箱タイプのチョコボールは、「ピーナッツ」「キャラメル」「いちご」の3種類が定番。パウチタイプなど、シリーズすべて合わせると現在は10種類ある。

 グミをチョコレートでコーティングした少し大粒の「グミチョコボール」は、2025年2月発売の人気商品。「ぶどう味」と期間限定の「とちおとめ苺(いちご)」があり、チョコレートのまろやかな甘さと少し硬めで甘酸っぱいグミのハーモニーがくせになる。パウチ形式で持ち運びしやすく、大人にも好評だ。

 小箱タイプには期間限定の味もあり、今は北海道ミルクが店頭に並ぶ。過去にはバナナ(02年)やビスケット(04年)のほか、スイートコーン(07年)、パチパチレモン(14年)、がんばるラムネ(20年)など「攻めた」味も登場した。パッケージごとに華麗に変身するキョロちゃんに、思わず目が丸くなります。

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