単発の求人に応じ、短い場合は一日数時間だけ働けばいいスポットワーク。飲食店「串カツ田中」が従業員確保の柱と位置づけるなど、労働市場で一定の役割を担うようになってきました。

雇う側と働き手、それぞれに起因する様々なトラブルが報じられることもありますが、ルールの改善も進んでいます。最近は自治体でも活用を模索しているという話をよく聞きます。人手不足に悩む企業や組織にとっては即効性のある現実解として選択肢の一つになりそうです。

(ビジネス報道ユニット副グループ長 小倉健太郎)

就業者最多なのに働く時間は1割減 「超細切れ労働」が迫る業務改革
就労人口はなお増えているのに各所で人手不足が目立つのはなぜか。答えは1人当たりの平均労働時間が短くなっているから。高齢化でこの傾向はさらに強くなり、フルタイム・常勤を前提とする発想は限界を迎える。月に数日、場合によっては1日に数時間といった「超細切れ労働」を生かす工夫…記事を読む

「1日おきの5時間くらいがちょうどいい。働ける環境があるのがうれしい」。取材に訪れた都内の介護施設で、75歳の女性スタッフは楽しそうに入所者と会話しながら作業をしていました。この施設では従来1人が担当していた業務を要素ごとに分解し、短時間労働者をうまく受け入れて人手不足を解決していました。

人手不足により各業界で起きる深刻な状況を多くの記事で報じてきました。今回取材を進めるなかで気づいたのが、短時間労働を望む働き手と事業者のミスマッチこそが人手不足の正体だという点です。フルタイム・常勤を前提とした人材確保は難しくなっており、短時間労働者を生かす環境づくりが重要になりそうです。

業務を分解することで短時間労働者に任せる仕事を明確にするだけでなく、付加価値を高める部分の見極めや無駄をなくすことにもつなげている事業者もあります。「超細切れ労働」に対応する過程でいかに業務改革を進め、働きやすい職場をつくれるかが問われています。

(松井亮佑)

スポットワークどう活用? 串カツ田中、囲い込みで採用コスト抑制
人手不足が深刻になるなか、1日に数時間といった隙間時間に働く「スポットワーカー」への関心が高まっている。安定して活用するための課題は何か。他社に先駆けて本格的に導入した串カツ田中ホールディングスは、独自の仕組みで働き手を囲い込み、費用の抑制を進めている。…記事を読む

スポットワーカーをフル活用する居酒屋や飲食店があると聞いた際、最初に抱いた感想は「単発の働き手に任せて大丈夫なんだろうか」というものでした。取材をしてみて分かったのは、何度も働きに来る「常連ワーカー」を増やすことでサービスの質を確保し、業務を教える手間も減らすといった工夫です。

東京・新橋の居酒屋「THE赤提灯」の上野翔店長は「スポットワーカーは仲間であり客でもある」として、丁寧な業務説明と改善の継続により選ばれる職場をつくっているといいます。実際、そこで働くスポットワーカーの63歳の女性は「良い雰囲気の職場は働き手もリピートする」といい、はつらつとした様子で注文を受けていました。

裏返せば、スポットワーカーをその日限りの働き手と位置づけることは「選ばれない職場」になるリスクがあるのだと感じました。スポットワーカーの声に耳を傾け、必要な時に必要な人材が駆けつけてきてくれる職場になれるかどうかがカギになりそうです。

(松井亮佑)

タイミー小川代表「職場の課題、スポットワークだから気づける」
タイミーの小川嶺代表
スマートフォンのアプリなどで隙間時間に単発で働く「スポットワーク」が広がっている。普及に伴う影響や活用のコツを、仲介最大手タイミーの小川嶺代表に聞いた。…記事を読む

スポットワークの仲介最大手タイミーは、小川嶺代表が起業して18年にサービスを始めました。スポットワーク市場は面接や履歴書も必要なく求人に応募できる手軽さから急拡大しています。私は当初「小遣い稼ぎ」のサービスとの印象を持っていましたが、今回のインタビューでは労働市場の新しいインフラになる可能性を感じました。

仕事を探す個人も人材を採りたい事業者も、ミスマッチによる離職は避けたいのは当然です。でも、実際に働いてみないと分からないことが多いのが普通です。スポットワークではお互いを評価し合う仕組みを通じてこうしたミスマッチを防止できるという点で、仕事選びや人材獲得の在り方を変えうる仕組みといえます。

一部の職場では働き手を名前ではなく「タイミーさん」などと呼び、疎外感を生む事例も出ていると聞きます。こうした距離感では中長期的な関係に進展する職場をつくるのは難しいでしょう。スポットワーカーを単発の働き手と考えないことが受け入れ環境をつくる第一歩といえそうです。

(松井亮佑)

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