
中部電力の再生可能エネルギー事業が行き詰まっている。千葉県と秋田県沖の3海域で進める洋上風力発電所の建設計画から撤退すると発表した。2030年ごろまでに再生可能エネルギーを17年度から320万キロワット以上増やす目標を掲げていたが、計画の撤退により目標達成への影響は避けられない。
中部電力は27日、グループ会社で電気設備大手のシーテック(名古屋市)の風力発電所建設計画からの撤退に伴い「三菱商事の意向を踏まえ、協議をした結果事業継続は困難との結論に至った」とコメントした。
三菱商事とシーテックは21年、政府が第1弾として公募した洋上風力で千葉県銚子市沖、秋田県の能代市・三種町・男鹿市沖、同県由利本荘市沖の3海域をすべて落札していた。インフレや金利の上昇の影響で事業の継続は困難と判断した。
シーテックは政府からのペナルティーとして今後予定される次回の公募への入札資格も失う。
320万キロワット以上の再エネ開発目指す
今回の計画を巡り26年3月期に170億円の損失を見込む。事業性を見直していた25年3月期に計上した減損損失と合わせると約360億円となる。シーテックは2月、プロジェクトに対する事業性の再評価をしていると公表し、その後事業を継続できないと判断して計画の撤退を決めた。
中部電は30年ごろまでに320万キロワット以上の再エネの開発を掲げている。24年度末時点で113万キロワットと進捗率は35%だった。3海域での洋上風力による発電量は計約170万キロワット。発電した電力の全てが中部電力の取り分とはならないものの、目標の達成に大きく寄与する見通しだった。今回の計画が頓挫したことで、再エネ発電量の目標達成に向けて戦略の立て直しが必要となる。
三菱商事と進めてきた計画以外の洋上風力事業は継続する予定だが、今回のような大型案件の創出は難しい。長崎県五島市沖で現在建設を進める風力発電の発電出力は1万6800キロワットと3海域での計画と比較して小さい。

陸上風力の適地も減っている。愛知県新城市と同県設楽町で陸上風力発電所の建設を計画していたが、事業化に必要となる十分な風量を確保できないとして24年に建設を取りやめた。水力発電やバイオマス発電の建設も進めているが、今回の洋上風力撤退分を補うのは難しそうだ。
太陽光発電の拡大が限界に近づき、洋上風力は数少ない有望分野とみられていたが、足元は資材価格の高騰が大きな負担となっている。中部電力の幹部は「サプライチェーン(供給網)を海外に頼り切っているのが問題だ」と語る。
唯一の原発の再稼働時期は未定
低炭素エネルギーの創出に向け、電力各社は再エネと並行して原子力発電に再び取り組み始めている。関西電力は美浜原子力発電所(福井県美浜町)で原発の新設に向けた地質調査を始めた。
ただ中部電力は唯一の原子力発電所である浜岡原発(静岡県御前崎市)の再稼働の時期も見通せない。現在は3、4号機の再稼働に向け原子力規制委員会がプラント審査を進めている。南海トラフ地震の恐れがある太平洋側に位置する浜岡原発では関電のような新設は容易でない。
中部電力は08年に浜岡原発6号機の建設計画を公表したが、東日本大震災による福島原発事故後の12年度以降、供給計画で運転開始時期を未定として記載している。中部電力の林欣吾社長は7月の記者会見で「計画自体を取り下げているわけではないが具体的に動いている状況は全くない」と話した。
再エネも原発も次の手が打ちづらい状況になった中部電力。人工知能(AI)や半導体の普及、データセンターの新増設などで増える電力需要に対応した安定供給に向け、持続性のある電源構成について抜本的に見直す局面に入っている。
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