
花王が8年ぶりに刷新した高価格帯スキンケア「エスト」の化粧水・乳液が好調だ。2025年10月の発売後3カ月間の同カテゴリーの売り上げが前年同期比で2倍になった。消費者の心をつかんだのが、砂漠で実証した高い保湿力だ。そのプロセスを動画にし、公式サイトやSNSで発信することでエビデンスを重視する人も取り込んだ。
赤茶けた岩と砂だけの世界に、1台の大型バンがゆっくり止まった。降り立った花王の4人の開発担当者らが、腕や顔に化粧水を塗り始める――。エストがSNSなどで発信する販促動画はこうして始まる。
化粧水「エスト ザ ローション EX」と乳液「エスト ザ エマルジョン EX」は各3タイプ計6種をそろえ、乾燥やくすみ、ハリ不足などの悩みに応じて選べる。最大の特徴は、従来品を上回る保湿持続力だ。
虫の生態がヒントに
開発には約5年をかけた。乾燥地帯でも生き延びる虫の生態に着目。干からびても水を得ると動き出す「ネムリユスリカ」の幼虫が細胞を守るために生み出す成分に、花王独自の保水技術などを融合。砂漠のような過酷な乾燥環境でも、潤いを保つ仕組みを実現した。

日本の湿度は平均60〜70%とされる一方、近年は冬場に20%を下回る「砂漠並みの日」も増えている。エストの高い保湿力をアピールするために、花王は約500年間雨が降っていない世界有数の乾燥地帯として知られる南米チリのアタカマ砂漠での実証動画の撮影に挑んだ。
開発メンバーは25年6月、現地に赴いた。標高は約2500メートルで、湿度は10〜20%、実際には7〜8%まで下がる時もあった。寒暖差が激しく紫外線も強い過酷な環境だ。エストのブランドマネジャーを務める清原麻紀子氏は「息を吸うだけで喉の水分が奪われるような感覚だった」と振り返る。
現地には6時間滞在し、肌の角層水分量やハリ・キメの変化を測った。その結果、従来品は塗布から1時間後に角層水分量が下がり始めたのに対し、新商品は約6時間うるおいが持続される効果を確認できた。動画にも実際に開発担当者らが肌に塗り、測定している様子を収めた。
「俳優のCMより説得力あり」
動画は公式サイトやSNSなどで発信。美容家やインフルエンサーらの「砂漠で実験したのがすごい」との反響が拡散された。
15秒の短いバージョンは197万回と販促動画では異例の再生回数を稼いだ。購入者からは「過酷な砂漠に行った研究熱にお金を落としたいと思った」「俳優のCMより説得力がある」といったコメントがあった。「夕方までうるおいが続く」「日中の乾燥によるメイク崩れが減った」といった実感のコメントも広がった。

発売3カ月で同ブランドの化粧水・乳液カテゴリーで売り上げが前年同期比2.2倍に伸びた。際立つのが新規客の獲得だ。発売月にエストを初購入した顧客数は前年同期比で約6倍超に増えた。スキンケアでここまで新規客が伸びるのは異例という。
もっとも、話題性だけを狙ったわけではない。現地訪問に先立ち、国内の研究所で同じ条件で検証を重ねた。「まず数値で確かな手応えを得た。だからこそ、砂漠でも乾かない自信があった」(清原氏)。科学的裏付けと現場実証の両輪で保湿力の高さを証明した。
清原氏は「エビデンスに基づき、きちんと実証し、それを分かりやすく伝える。そこまでやり切ることが、この時代に選ばれる理由になる」と強調する。
(西山良太)
エスト ザ ローション EX 25年10月に発売した化粧水。本体140ミリリットル入りの価格は6930円。乳液「エスト ザ エマルジョン EX」(本体120グラム)は同7370円。悩みに応じた各3タイプがある。百貨店や化粧品専門店などで販売。 【関連記事】
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