労働安全衛生法の改正に伴い、4月から高齢者の労働災害防止対策が企業の努力義務となった。労働者の高齢化に伴い、労災が増加していることが一因だ。年を重ねるほど転倒のリスクなどが高まり、回復まで長期化する傾向もある。対策としてオリジナル体操を導入した企業も出てきている。
環境改善に加え身体機能向上に注目
横浜市にある「三菱ケミカル関東事業所 鶴見地区」。午後1時、昼休み終了を告げるチャイムが鳴ると、テレビの前に作業着姿の社員が集まった。流れる動画に合わせ、社員が約4分間、片足でバランスを取ったり、腕を回したりした。オリジナルの「三菱ケミカルグループ体操」で、主に柔軟性や下肢の筋力を高めるのが目的だ。
素材開発などを担う同社はグループ全体で社員約6万3000人を抱え、平均年齢も上昇傾向にある。国内外に多くの製造拠点があり、転倒などの労災防止が課題だった。対策として、社内の段差や暗がりの解消など環境改善に取り組んだが、撲滅に至らず、注目したのが従業員の身体機能向上だった。
産業医らが研究を重ね、2017年度に9項目の体操を導入。勤務日に1回は実施するようルール化した。座位やスカート姿でも体操できるバージョンをそろえ、在宅でも動画を視聴できる。18年度からは、片足立ちや狭い幅の歩行でバランス能力を測る年1回の体力テストも始め、リスク評価もしている。
その結果、過去1年間で私生活も含めて転倒した社員の割合が、18年度の14%から24年度の6%まで減少したという。担当者は「年齢が上がるにつれて柔軟性や脚の筋力が落ちて転倒につながりやすい。身体機能維持の取り組みは会社からの大きな贈り物にもなる」と話す。
被災の3割が60歳以上
厚生労働省によると、労災死傷者は近年増加傾向にある。24年は13万5718人で、このうち60歳以上は約3割の4万654人に上り過去20年間で倍増した。工場で働いていた60代女性が水をまいて清掃中に転倒し、右手を骨折して半年間休業したケースなどが確認されている。
こうした事情を背景に、昨年5月、事業者による高齢者の労災防止対策を努力義務とする改正労働安全衛生法が成立した。
ただ、厚労省の24年調査では60歳以上の労働者がいる事業所のうち、年齢を考慮した作業管理など高齢者の労災対策に「取り組んでいる」と回答したのは2割弱にとどまっている。厚労省は、27年までに高齢者の労災発生率上昇に歯止めをかける目標を掲げており、担当者は「高年齢者が安心安全に働けるために、職場環境改善の措置が適切に講じられるよう取り組みたい」と話している。【蓬田正志】
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