
東北大学の災害科学国際研究所(災害研)がソフトバンクと共同で、防災に特化した人工知能(AI)の開発に乗り出す。災害研は東日本大震災の1年後の2012年4月に発足した。震災15年の間に蓄積した教訓や知見を継承し国内外に広く発信する。
災害研の第4代所長に就いた越村俊一教授が2日の就任記者会見で構想を明らかにした。26年度から3年間をかけてAIモデルを開発したあと実用化をめざす。開発拠点の1つとしてソフトバンクとの間で共創研究所を近く設立する方向で合意した。
越村氏は「技術革新と社会変革を基盤とした災害科学の新たな価値を創造したい」と話す。AIの実用化や普及に向けて大学や研究機関、企業に幅広く参画を働きかけ、AI構築のために必要なデータも広く募る。
まず歴史資料や映像、震災の語り部などの伝承記録、自治体などの復興の取り組みに関する記録、観測データなど災害に関する様々な情報を学習させてAIモデルを構築する。防災に関わる行政や研究機関、企業などの利用を想定している。
越村氏は「災害対策のあらゆるフェーズで活用できるAIをめざす」と話す。例えば事前の防災対策の策定や異常の検知、発災時の避難・救援活動の支援、災害からの復旧・復興計画などについて最適解を示す。

災害研が防災AIの開発に乗り出すのは、震災後の15年で蓄積してきた教訓や知見を国内外に広く発信しなければならないという問題意識がある。
災害研は東北大で最も新しい付置研究所だ。震災後、大学の学問・研究が甚大な被害の抑止に役立てなかったという反省から生まれた。災害・防災関連の理工学だけでなく人文社会科学や医学などあらゆる学問分野の研究者を集め、震災の経験や教訓をもとに「防災総合知」の構築をめざした。
社会や被災地に直接貢献する「実践性」を重視。例えば新所長の越村氏は自らが開発したリアルタイム津波浸水・被害予測システムを社会実装するため、18年にNECなどと共同でスタートアップを立ち上げ自治体などに津波予報サービスを提供する。
各地で頻発する災害にも災害研の知見は生かされている。24年の能登半島地震では発災直後の1月9日に速報会を開催し、被災地に入った研究者の報告や被災地支援や復旧に必要な情報を発信した。実務面でも石川県輪島市の復興まちづくり計画の策定を災害研の姥浦道生教授(都市計画)が主導した。
一方で震災から15年を経て人口減少や社会インフラの老朽化、気候変動に伴う災害の激甚化といった新たな課題が浮上する。記憶の風化が進み、語り部や伝承施設による経験や教訓の継承の難しさも浮き彫りになっている。防災AIの構築により教訓を一般化して社会に発信する効果を期待する。
災害研で蓄積した知見を生かし、国内外で防災や復興の実務を担う人材を育成する取り組みも始まる。東北大は4月に大学院環境科学研究科に「災害科学コース」を新設し、10月から新興国や途上国の公的機関や企業などから10人強の学生を受け入れる。災害研の教員がほぼ全ての科目で指導に携わる。
越村氏は就任にあたり「世界の防災研究や実践のハブ・アンド・スポークとなり、災害科学の成果を最適な形で世界に届けたい」と意気込む。今後予想される南海トラフ巨大地震や首都直下地震、さらには自然災害が頻発・激甚化するなかで災害研に期待される役割は増している。
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