入り口には扉を設けず立ち寄りやすくし、ベージュを基調とした(東京都港区の「エムットスクエア TAKANAWA」)

店舗統廃合を進めてきたメガバンクが新規出店にカジを切り始めた。三菱UFJ銀行は約20年ぶりに東京・高輪で新型店を開業し、初めて平日夜間や土日も営業する。金利ある世界が到来し、リアルの店舗でもリテール(個人向け金融)が戦略事業に変わってきた。三井住友、みずほの2メガバンクも新型店を展開しており、デジタルも交え顧客争奪戦が激しくなりそうだ。

「約20年ぶりの新規出店は銀行としての大きな節目だ。店舗の姿を大きく変える新しいチャレンジだ」。三菱UFJ銀行の半沢淳一頭取は店舗開業を前にこう話した。

新型店の名称は「エムットスクエア」。1号店はJR高輪ゲートウェイ駅(東京・港)直結の商業施設内に12日、開業する。三菱UFJ銀は全国に約320店の支店・出張所網を構えており、将来的に80〜100店程度を新型店に転換、あるいは新規出店する。

ターゲットは「働く世代」。預金だけでなく資産運用全般で相談を受け付ける体制を整える。

従来の店舗は平日のみの営業で午後3時に終業していたが、エムットスクエアは営業時間を大幅に伸ばす。平日の日中に来店の難しい現役世代や子育て世帯が利用しやすくする狙いで、法人向けの取引はしない。

例えば、平日と土曜日は午前11時から午後6時まで有人で口座開設や運用相談などを受け付ける。有人受け付け終了後も、午後8時までは無人端末によってデジタル取引の案内をする。日曜日も無人端末を利用できる。

三菱UFJは6月、個人向け金融サービスの新ブランド「エムット」を立ち上げた。カードや証券などグループのサービスを連携させ、共通ポイントで囲い込みを狙うだけでなく、26年度後半にはデジタルバンクも新設する。

デジタル・リアルの両面で受け皿をつくっておかなければ、三菱UFJといえどもうかうかしていられない事情がある。個人預金の獲得競争が激しくなっていることだ。

全国銀行協会によると、都市銀行の預金残高は1年前からの伸び率が8月末に0.2%増とほぼ横ばいが続いている。3%程度の増加率があった24年と比べ鈍化している。

危機感を抱くのは三菱UFJだけではない。三井住友銀行は約250店を商業施設内などの小規模店舗「ストア」に替える計画を進めている。みずほ銀行も3月に個人客向けの新型店舗「みずほのアトリエ」を開き、東京・池袋に口座開設に特化した専門店も出店した。

3メガだけではない。三井住友信託銀行は資産運用や相続などの相談サービスを、全国110拠点超で平日夕方以降や土曜日にも展開する。相談に特化した店舗も増やしている。りそなグループは24年からりそな銀行が相談特化型の新店舗「りそなイン」を展開している。

大手行は超低金利が続いた2010年代半ば以降に合理化の一環で店舗を統廃合してきた。日本大学の杉山敏啓教授によると、1993年に3500店舗あった都市銀行の店舗数は、今年3月末時点で1300店程度と約30年間で約6割減った。三菱UFJ銀行と三井住友銀行がピーク比7割減、みずほ銀行が同6割減だった。

日銀は利上げ局面に入った。今の政策金利0.5%は17年ぶりの高水準だ。預貸金ビジネスだけでなく、資産運用全般にビジネスチャンスが増えている。三菱UFJの新店は、大手銀行のリテール戦略が転換点を迎えたことを象徴している。

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