
松江市内の飲食店や旅館などで「食のバリアフリー」に向けた取り組みが広がり始めた。特定原材料などを使わない食物アレルギー対応や、飲み込みが難しい人でも楽しめるメニューなど、バリエーションも増えつつある。誰でも安心して食事が楽しめる街として、観光地・松江の新たな魅力につながる可能性もある。
松江しんじ湖温泉にある旅館のなにわ一水(松江市)は、飲み込みが難しい人向けに開発した「嚥下(えんげ)食」の提供を9月から始めた。

一般客向けの和食会席を、飲み込みやすいペースト状にするのにとどまらず、ゲル化材などで「再成形」。盛り付ける器を含め、見た目も美しく仕上げる。ビールなどの炭酸飲料も炭酸の食感を残したまま、とろみをつけて提供する。嚥下補助食品のニュートリー(三重県四日市市)と組んでメニューの開発を進めてきた。
8月28日に開いた体験会では、飲み込み機能に障害のある招待客が、嚥下食に舌鼓を打った。松江市から参加した90代の女性は「本当においしい」と笑顔。勝谷有史社長は「一般客向けと遜色ない食事を提供できるようになった」と胸を張る。
なにわ一水は食物アレルギーや、ビーガン(完全菜食主義者)などの要望に対応しており、嚥下食もラインアップに加わった。準備などの手間はかかるが、食事込みの宿泊料金は一般と同じだ。「価格をバリアにしたくない。家族と一緒に旅行や食事を楽しんでもらいたい」(勝谷社長)

飲食店を展開する根っこや(松江市)は、島根県立美術館(松江市)内で展開するレストランで、食のバリアフリーに配慮した食事を出すイベントを定期的に企画する。
第1弾としてアレルギー対応食をテーマに6月に開催した。卵を使わないオムライスなど洋食をバイキング形式で提供した。次回は年内を予定する。今後もビーガン対応などテーマを決めて企画していく。
古安良平社長は「アレルギーや宗教などの壁を越えて、安全、安心なメニューで国内外からお客を迎えられるレストランにしていきたい」と話す。
Food Marico(フードマリコ、東京・中央)は、松江でアレルギー対応食を提供する子ども食堂を立ち上げた。上田まり子社長は、なにわ一水や根っこやのメニュー開発にも協力している。
「食のバリアフリー」導入には、厨房施設や食材の管理などが壁となる。勝谷社長や上田社長らは、嚥下食やアレルギー対応食のノウハウをマニュアル化し、旅館などに提供する計画を立てる。まずは松江市など島根県内を中心に取り組む方向だ。
食物アレルギーなどを理由に外出をためらっていた人が、気軽に旅行や食事を楽しめれば、新たな市場開拓につながる。松江で「食のバリアフリー」が広がることで、観光地としての付加価値を高められる可能性も秘めている。
(田中伸樹)
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