
イスラエル軍が16日、パレスチナ自治区ガザの中心都市ガザ市で地上侵攻を始めたと発表した。飢餓や空爆で既に深刻な人道危機を悪化させ、住民の犠牲を膨らませる軍事作戦は許されない。
イスラエルはガザで人命を奪い破壊を尽くす不条理な武力行使をやめなければならない。自らが目指す人質の奪還を危うくし、停戦を遠ざけるのではないか。行き過ぎに歯止めをかけるよう、国際社会は力を合わせるべきだ。
人口密集地のガザ市からは数十万人が退避したが、なお多くが残るとされる。イスラエルはガザへの物資搬入を制限し、ガザ市住民に南部への退避を求めてきた。国連は8月、ガザ市と周辺で飢饉(ききん)が起きているとした。
住民を飢えさせるのも、移住を強制するのも、人道に反し断じて受け入れられない。南部は既に避難民がひしめき、逃げ場は乏しい。民間人をさらに追い詰める地上侵攻は言語道断だ。
一昨年からのイスラエルの攻撃で、ガザの死者は約6万5千人に及ぶ。国連人権理事会の独立調査委員会は16日、イスラエルがガザでジェノサイド(大量虐殺)をしていると認定した。
国連のグテレス事務総長は「就任して以来、記憶にないほどの大規模な民間人の殺害が起きている」と非難している。
イスラエルは同委員会の報告に反発した。一昨年にイスラエルを奇襲して市民を殺害し、人質をとったイスラム組織ハマスの蛮行は許されない。しかしそれでイスラエルによる軍事攻撃が無限に正当化されると考えるのは誤りだ。
同国のネタニヤフ政権はハマス壊滅と人質奪還を掲げ、8月にガザ市制圧計画を承認した。日本を含む国際社会が強い懸念を表明した。人質を危険にさらすとの反対論はイスラエル国内でも強い。
ネタニヤフ首相は聞く耳を持たない。米国の肩入れも問題だ。15日に同氏と会談したルビオ米国務長官は、ガザ市地上侵攻を容認した。イスラエル軍がハマス幹部を狙った9日のカタール空爆についても、表向き批判を避けた。
米国の支持をいいことにイスラエルが逸脱を重ねるのを国際社会は見過ごすべきでない。ガザの惨状が続き、中東は不安定になる。同国への制裁を検討する動きが欧州で出ている。日本も懸念を共有する国々とともに軌道修正を求め続ける必要がある。
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