イギリスのスターマー首相は21日、ビデオ声明で、パレスチナを国家として承認すると発表しました。

スターマー首相は、イスラム組織ハマスに対してはテロ組織だと非難する一方、イスラエルはガザ地区への攻撃を停止すべきだとして「2国家共存の希望は薄れつつあるが、その光を消してはならない」と強調しました。

また、カナダとオーストラリアもパレスチナを国家として承認しました。

パレスチナの国家承認はおよそ150か国が行っていますが、G7=主要7か国では、イギリスとカナダが初めてです。

3か国としては、ガザ地区での停戦や長期的な和平に向けた機運を高めるとともに、イスラエルに圧力をかけるねらいもあるとみられます。

ニューヨークの国連本部では22日、フランスとサウジアラビアが主導して、イスラエルとパレスチナとの「2国家共存」による和平を推進する会議が開かれます。

イスラエルはパレスチナの国家承認に反発していますが、パレスチナ側によりますと、会議に合わせて新たに承認する国はイギリスなどを含めておよそ10か国にのぼる見通しで和平への機運が高まるかどうかが注目されます。

アッバス議長「『2国家解決』実現に向けた道切り開く」

イギリス、カナダ、オーストラリアがパレスチナを国家として承認したことについて、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長は21日、声明で「パレスチナの人々の自決権や自由、独立を認めることは、パレスチナとイスラエルが国家として共存する『2国家解決』の実現に向けた道を切り開く」として歓迎しました。

その一方で、いま優先することとして、ガザ地区での停戦や人道支援物資の搬入、イスラエル軍の完全な撤退のほか、ヨルダン川西岸でのイスラエルによる入植活動の終了などを挙げました。

イスラエル首相「パレスチナ国家が樹立されることはない」

イギリス、カナダ、オーストラリアが、パレスチナを国家として承認したことについて、イスラエルのネタニヤフ首相は21日、ビデオ声明を発表し、「イスラム組織ハマスのテロ行為に大きな報酬を与えている」と述べて、強く反発しました。

そして、「ヨルダン川西岸にパレスチナ国家が樹立されることはない」と強調したうえで、各国がパレスチナを国家承認する動きにどう対応するかは近く明らかにするとしています。

国家承認 アメリカの立場は

アメリカのトランプ政権は、いまパレスチナを国家として承認しても、ガザ地区での戦闘の終結につながらないなどとして、否定的な立場をとっています。

ルビオ国務長官は各国の国家承認の動きについて「交渉を妨げ、ハマスを勢いづかせるもので、賢明な行動ではない」と述べ非難しています。

また、日本政府が承認を見送る方針を示したことについて、アメリカ国務省のヒューストン副報道官はNHKの取材に対して「日本の判断こそ私たちが望むものだ。現時点で『2国家解決』を検討しないという判断を私たちは支持する」と評価しています。

トランプ政権は、現段階では、パレスチナを誰がどう統治するのかが見えないという認識を示していてパレスチナ暫定自治政府に対しても不信感を抱いています。

今回、トランプ政権は、アッバス議長を含むパレスチナ暫定自治政府の当局者が国連総会にあわせてアメリカに入国するためのビザを発給しませんでした。

理由として、パレスチナ暫定自治政府がICC=国際刑事裁判所などを通じて、イスラエルとの対立を国際問題化しているほか、教科書などで暴力を扇動したり、たたえたりして、テロを支援しているなどと主張しています。

1期目のトランプ政権で中東政策を担当していた国務省の元高官で、外交問題評議会のエリオット・エイブラムス上級研究員は、「トランプ政権はパレスチナ暫定自治政府の統治能力を非常に否定的に見ている。ガザ地区を統治する能力はないと考えている。国家承認の動きを政治的なパフォーマンスにすぎないとみて、トランプ政権は重要視しないだろう」と分析しています。

そして「イスラム組織ハマスを壊滅させその復活を防ぐための措置を講じる必要がある。パレスチナ国家の重要な基準の1つは、テロ組織を育まないことであり、それがトランプ大統領にとって重要なのだと思う」と述べました。

「2国家共存」とは

「2国家共存」とはイスラエルと将来的なパレスチナ国家の平和的な共存を目指す、中東和平交渉の解決策のことです。

「2国家解決」とも言います。

大きなきっかけとなったのは1993年にイスラエルとパレスチナが結んだオスロ合意です。

「オスロ合意」ではパレスチナ側が暫定的な自治を始めることなどで双方が合意し、国際社会や国連も2国家共存を目指して、交渉を後押ししてきました。

ところが、最終合意間近とされた2000年のキャンプデービッド会議は聖地エルサレムの扱いなどをめぐり決裂。

その後、パレスチナではイスラエルに対する武装闘争を掲げるイスラム組織ハマスが台頭しました。

イスラエル側でもパレスチナに対して強硬な立場を取る右派政権が続き、将来的なパレスチナ国家の領土とされるヨルダン川西岸ではユダヤ人入植地が拡大しました。

こうしたなか、交渉は2014年を最後に途絶えています。

2023年10月に始まったイスラエル軍とイスラム組織ハマスとの戦闘に終わりが見えないなか、国際社会では、2国家共存による和平の実現を呼びかける動きが強まっています。

今月12日には国連総会で2国家共存による和平を支持する決議案が日本を含む142か国の賛成多数で採択されました。

一方で、イスラエルやアメリカなど10か国がこの決議案に反対しました。

イスラエルのネタニヤフ首相は、パレスチナ国家の樹立について「平和的に共存するものではなくイスラエルを破壊するテロの拠点になる」などと否定的な考えを強調しています。

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