酒田市の伝統工芸品・酒田船箪笥をご存じだろうか。その頑丈な作りから、北前船の船頭たちが重要な書類や金銭を保管したと伝えられている。近年、職人と後継者がいなくなり伝統を守りつないでいくことが難しい中、復興と継承に向けて行動する男性の挑戦を取材した。

江戸時代、北前船に載せられ船頭が金庫として利用していた酒田船箪笥。
すき間なく組み立てられるその気密性から水に浮き、船が沈没しても金品や重要書類は回収できたといわれている。

酒田市にある加藤木工は、市内で船箪笥を作り続ける唯一の木工店。

(加藤渉さん)
「船の中で使われていたので耐水性・防火性などの能力に長けている。またその一方で、けやきの美しさや装飾金具の美しさ、さらには漆塗装の出来など美術的要素がかなり大きな特徴」

加藤木工・4代目の渉さんは、関西の電気メーカーを退職後、45歳で職人の道を歩み始めた。
現在は職人歴58年の3代目の父・治さんと共に船箪笥を作り続けている。

酒田船箪笥の最大の特徴は「指物」と呼ばれる技法。

(加藤渉さん)
「指物は鉄の金具や釘を使わず“ほぞ”といわれる凹凸だけで木材を組み立てる。できるだけ密閉度を高めるために木材だけで仕上げる技術」

こうした伝統の技術が受け継がれてきた酒田船箪笥だが、近年はライフスタイルの変化で需要が激減している。

(加藤渉さん)
「日本の家具自体が、生活様式が変わったことで使われなくなってきた。この6年で私たちが作った中で販売につながったのは1棹」

しかし、新品の需要が減った一方で、骨董品市場では美術的な価値が高く評価されている。
こうした状況を受け、加藤さんが目を付けたのが海外の展示会だった。
美術品として“認知度の向上”を目指す。

これまで、ヨーロッパを中心に10を超える展示会に酒田船箪笥を出展し、賞も受賞するなど高い評価を受けていた。
次に目指しているのは、2026年10月にフランス・パリのルーブル美術館に併設された商業施設で開かれる展示会。
美術品を買い付ける世界のバイヤーが集まる。

(加藤渉さん)
「船箪笥の自然美、木目の美しさや金具の出来の良さ・漆の美しさをそのまま伝えていきたい。さらにその次に、フランスの形態に合うように形状変更をするなりして、日本の人に興味をもってもらえる作品に変えていければいい」

酒田光陵高校・機械制御科の実習室。
この日、ある金具の加工が行われていた。

(高校生)
「これは船箪笥の金具で、箪笥の角の部分を作っています」

生徒たちが作っているのは、船箪笥の顔ともいえる扉を彩る“装飾金具”や強度を高める金具。

(高校生)
「今の時代はこうした機械があって作れていると思うと、昔作っていた人たちはすごい技術で作っていたと思う」

「金具を作る人がいなくなってきてることもあり、自分たちがやることで伝統も引き継がれて行くと思う」

現在、酒田市にはこうした金具を手がける職人はいない。
加藤さんは、「若い人に伝統技術を受け継いでほしい」との思いから、“装飾金具”の製作を酒田光陵高校に依頼した。

機械制御科の3年生6人が課題研究として、2026年のフランスでの出展を目指す作品に使う“装飾金具”を担当する。

(高校生)
「私自身ものづくりがとても好きで、人の役に立ったり、世界に広まることはとてもうれしいと思っている」

「世界の人に見てもらうためにはできるだけきれいに船箪笥を完成させたい」

(加藤渉さん)
「次の世代・若い世代が、こうした伝統工芸に興味を持ってくれてさらに挑戦してくれる。そういう機会を得たということがすごく大事だと思うので、彼らにそれを託したい」

酒田船箪笥そのものの価値を向上させると共に、技術と伝統を次世代につなぐ4代目の挑戦。
芸術の都・パリで披露する作品は2026年1月に完成する予定。

紹介した製作中の船箪笥はパリで披露されるもので、金具は高校生、表面の漆塗りは酒田市内の職人が手がける予定。
完成すれば“オール酒田”による作品になるという。

職人がいなくなり伝統を受け継ぐことが難しい中、“オール酒田”で仕上げ、フランス・パリでお披露目されるのは何だかうれしく感じられる。

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