トランプ氏㊨は23日、ニューヨークでゼレンスキー氏と会談した=ロイター

【ワシントン=坂口幸裕、ニューヨーク=北松円香】トランプ米大統領は23日、欧州の支援があればウクライナがロシアから全土を奪還できると表明した。和平合意へウクライナに一部領土の割譲を迫ってきた態度を一転し、対話に軸足を置いてきた対ロシア政策で圧力を強める姿勢を鮮明にした。

プーチン氏との関係「何の意味も無かった」

「私とプーチン(ロシア大統領)の関係があるから容易だと思っていた。残念なことにその関係は何の意味もなかった」。トランプ氏は23日、フランスのマクロン大統領とニューヨークで会談した際、想定通りにいかないウクライナ紛争の停戦を巡る心境を吐露した。

トランプ氏は1期目の大統領任期を終えた後も接触を続けた「蜜月関係」をテコに早期停戦を実現すると2期目の就任前から豪語してきた。しかし、プーチン氏との個人的な関係に基づく交渉進展はできなかったと認めざるを得なかった。

23日、自身のSNSには「ロシアに経済的苦境をもたらしている現状を目の当たりにし、欧州連合(EU)の支援を得たウクライナは戦いに勝利し、ウクライナ全土を元の姿に取り戻す立場にある」と投稿した。

同時に「時間と忍耐、欧州、とりわけ北大西洋条約機構(NATO)の財政支援があればこの戦争が始まった時点での国境線回復は十分に実現可能な選択肢だ」と提起し、長期化も辞さない構えを示唆した。「ウクライナは自国を元の形で取り戻し、さらにその先へ進むことさえできるだろう」と記した。

ロシアの領空侵犯、「NATOは撃墜すべきだ」

トランプ氏は8月18日、ウクライナのゼレンスキー大統領や欧州首脳との会談で「現在の前線を考慮した領土交換の可能性も議論する必要がある」と提唱した。和平実現には一部譲渡はやむを得ないとの認識を示し、ウクライナ側に歩み寄りを促した経緯がある。

全領土の奪還をかねて唱えてきたウクライナに寄り添う形で方針転換した背景には、和平交渉で歩み寄る姿勢を見せないロシアへのいら立ちが透ける。

トランプ氏がウクライナとの交渉を促すさなかにもロシアは挑発行為を繰り返した。ウクライナへの大規模攻撃に踏み切るだけでなく、ドローンや戦闘機でポーランドやルーマニアなどNATO加盟国の領空を侵犯した。

トランプ氏は記者団からロシア軍機がNATO加盟国の領空に侵入した場合、撃墜すべきか問われ「そうすべきだ」と答えた。米国が支援するかと聞かれ「状況次第だ」と否定しなかった。

トランプ氏は「プーチン(ロシア大統領)とロシアは深刻な経済危機に陥っており、今こそウクライナが動く時だ」と主張。対ロシアへの抑止力を高めるため「NATOが望むやり方で活用できるように武器供与を継続する」とも宣言した。

米メディアによると、プーチン氏は8月15日のトランプ氏との会談でウクライナに東部ドンバス地方(ドネツク州、ルハンスク州)からの軍撤退と割譲を要求した。引き換えに南部ヘルソン州とザポリージャ州は両軍が接触する現状の前線で戦闘を停止すると主張した。

この4州はロシアが2022年2月にウクライナ侵略後に一方的に併合を宣言した。ルハンスクはほぼ全域を制圧したが、ドネツクの支配地域は南部2州と同じ7割ほどになる。

ゼレンスキー氏、米国の関与求める

ゼレンスキー氏は14年にロシアが併合したウクライナ領クリミア半島を含む全領土の奪還をかねて唱えてきた。ドンバス地方に関する領土交渉について「現在の前線がスタート地点となるべきだ」と言及したものの、ロシア側との隔たりは大きかった。

トランプ氏は23日、SNSへの投稿に先立ちニューヨークでゼレンスキー氏と会談した。ゼレンスキー氏はニューヨーク訪問前にトランプ氏との会談について、ロシアとの戦闘停止後に欧米の国々が提供する予定の「安全の保証」を協議すると明らかにしていた。

ゼレンスキー氏は会談後、X(旧ツイッター)に「(トランプ)大統領は状況を明確に理解している」と称賛し「戦争終結に向けた彼の決意を高く評価する」と書き込んだ。

英国やフランスなどウクライナ支援の有志国連合は9月上旬、ロシアによる将来的な再侵略を防止する安全の保証について協議する会合を開いた。26カ国が現地への部隊派遣などの形で協力すると約束した。日本は会合には参加したが、この26カ国には含まれていない。

安全の保証が十分に効力を発揮するには、突出した軍事力を持つ米国の関与が不可欠だとみられている。英仏やウクライナは米国に協力を呼びかけてきた。トランプ氏は欧州が期待する地上軍派遣には否定的で、米がどのような形で関わるのかまだ明確にしていない。

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